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音楽で未来を変える セブ島の子どもたちを救う「セブンスピリット」

2019.09.03

フィリピンの子どもたちに音楽を通じて生きる力を身につけてほしい――。そんな思いで始めた活動が今年2月で8年目を迎えた。セブ島を拠点とするNPO法人「セブンスピリット」で事務局長を務め、子どもたちの変化を見守ってきた永田正彰さんに話をうかがった。

フィリピンのセブ島といえば、リゾートや語学学校といったイメージを持つかもしれない。しかし華やかな雰囲気の一方で、まだまだ貧困から抜け出せずにいる人たちも多い。そこで暮らす子どもについて「フィリピンの公教育は高校まで無料ですが、お金がなくて制服や文房具がそろえられなかったり、親御さんも小学校教育程度しかなく『学校に行っても仕方がない』と考えて、途中で辞めさせてしまうケースが多いんです」と永田さんは話す。教育を受けない子どもは、善悪の判断がつかず犯罪や薬物に手を染めてしまうことも。セブンスピリットは、そんな子どもたちのために、音楽を通じて社会性や協調性、人を思いやる心などを育み、将来を切り開く力を身につける場を提供している。

セブンスピリットでは、毎日のように放課後に音楽教室を開くほか、週2回の出張音楽教室、週末はスポーツ教室を実施。主な活動である音楽教室では、リコーダーや鍵盤ハーモニカで音楽の基礎を習得した後、オーケストラの楽器へと進む。希望者は学校へ行くことを条件に無償で受け入れ、現在は7~19歳まで約120人が在籍する。

レッスン風景

永田さんのレッスン風景

生徒はスラム出身から中流階級の子どもまで様々。最初は練習を邪魔するなど争いごとが絶えなかったという。しかし次第に音楽の楽しさに目覚め、みんなで1つの曲を作り上げるという目標ができたことで協調性も生まれてきた。

スラム以外の世界を知らずに生きてきた子どもが、視野を広げる機会も与えている。「『お母さんが死んじゃった』とウソをついてお店から無料でパンをもらったり物乞いをしていたのが、音楽に出会って生活態度を改めたという子もいます。また、いろんな人と関わったりコンサートで各地を訪れ、『こんな職業があるんだ』『こんな美しい場所があるんだ』と知り、それをきっかけに警察官や先生を目指したり、もっと違う国に行きたいという夢を持った子もいます」。ほかにも、フィリピンの大学ではオーケストラに所属すると学費が無料になる制度があり、セブンスピリットからも毎年10人前後が制度を利用して進学している。

セブ島の子どもたち

楽器を奏でている間は、立ち込めるドブの臭いやストレスから解放され、
笑顔がこぼれる。

音大を卒業後、学校や音楽教室などで指導をしてきた永田さんは、今から6年前、セブンスピリット主催のイベントに参加。現地でスリに遭ってしまった際、助けてくれた地元住民の優しさに触れ、海外の仕事に興味を持っていたこともあり活動に加わることを決めた。「どんどん変化していく子どもたちの姿を見るとやりがいを感じます」と永田さん。最初は自ら子どもたちに楽器を教えていたが、最近は現地スタッフでほとんど運営を回せるようにまでなった。今年に入ってからは、個人的に指揮の勉強のためドイツへ行ったり、アフリカでの音楽を通じた社会貢献活動の誘いを受けたりと、活動の幅を広げつつある。「行く先々でセブンスピリットの話をしているので、チャンスがあればヨーロッパやアフリカにも子どもたちを連れて行きたい。あとはフィリピン国内でもっと音楽を広げていけたら。例えば、イスラム紛争があったミンダナオ島などでいい作用を起こしたいですね」。音楽の持つ可能性を信じて、将来を見据える。

セブ島のオーケストラ

音楽の輪が広がり、年々参加者が増えている

セブンスピリットでは今年の10月30日~11月6日、第2回目となる日本での演奏ツアーを計画。生徒50人が来日し、東京(11月2日)と大阪(11月4日)でコンサートを行う。

【PROFILE】
永田 正彰(ながた まさあき)さん / 吹田市出身
2008年大阪音楽大学卒業。吹田市立千里丘中学校吹奏楽部の指揮者・技術指導員としても勤務した。大阪音楽大学音楽博物館の職員をしていた経歴から音楽学、音楽史、世界の民族音楽などにも明るい。

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