震災がもたらした 借り上げ 復興住宅問題


1995年に発生した阪神淡路大震災で、多くの人が家を失い仮設住宅に住むことを余儀なくされた。その後、自治体が民間事業者やUR(都市再生機構)等から借り上げた復興住宅の供給により、人々は安心して暮らせる家を手に入れた。しかし震災から20年が経過した今、住宅の借り上げ期間が次々に満了しつつある。他の市営住宅への移転を迫る市と居住を望む入居者。大震災が引き起こした前例のない問題に、双方の困惑や怒りが広がっている。

【神戸市・西宮市が被災入居者を提訴】
2016年1月、神戸市がURから借り上げた「キャナルタウンウエスト1~3号棟」が返還期限を迎えた。同市は2月、継続入居要件を満たさず住み続けている3名にし、明け渡しと損害賠償を求める訴訟を起こした。法的手段に出たのは同市が初めて。次いで西宮市も5月、同様に返還期限が過ぎた「シティハイツ西宮北口」に住む10名を提訴した。
 神戸市では現在も2,498戸に年間約23億9千万円(11月末時点)、西宮市では264戸に約4億円(2015年度)の借り上げ料を支払っている。訴訟に踏み切ったのは、「自力再建した人やすでに退去した人たちとの公平性を考えると、これ以上の税金投入は難しい」との判断からだ。
 裁判の争点の一つは、事業者と自治体の借り上げ契約の終了により、退去しなければならないかどうか。西宮市は「借り上げ復興住宅はあくまで緊急的措置」とし、入居時の許可書や入居案内に期限を記載していると主張。被告の弁護団は「入居が決定した後に知らされても遅い。期限が20年との明記がないケースもあり、合意があったとはいえない」と反論している。実際、シティハイツ西宮北口の住民は、2012年の市からの通知によって借り上げ期間が存在するとのことをはじめて知ったという。

【一定の施策も住民の不安拭えず】
 両市ではこれまで、公営住宅への転居の優先的な斡旋や、移転料の支払い、住み替えによる様々なサポートを進めてきた。引っ越し後には、職員が訪問調査を行い入居者の様子を確認。特に神戸市では、交流の深い複数世帯が一緒に転居できるグループ申し込み制度を整え、コミュニティにも配慮している。一方で、高齢者や病気を抱える人には、引っ越しによる環境変化への不安は大きい。12月1日に行われた西宮市の第2回口頭弁論では、単身で住む80歳代の女性が「かかりつけの病院は遠くなるし、近所との関係がなくなるのも辛い。ここが終の棲家と信じて住んできた」と胸の内を訴えた。弁護団の吉田維一弁護士は、「高齢者にとって、近所との関係、コミュニティとの関わりはとても重要。生きがいであったり、時に家族以上の存在でもある」とコミュニティの重要性を説く。

【守るべきは公平性か、被災入居者の安心か】
 震災の混乱の中で一刻も早い住宅供給の必要性に駆られた市と、じっくりと住居の選択をする余裕もなかった被災者。当時は両者ともに精一杯の判断だったが、それが今になって悲劇を引き起こしている。市の担当者は「できることなら穏やかに収束させたい」「難しい問題。税金も市民も守らなければいけない」などと話す。弁護団の吉田維一弁護士は「自治体は20年かけて形成されたコミュニティを壊している。高齢になって”被告”と呼ばれるストレスも相当なもの」と批判。北海道大学の吉田邦彦教授は「強制退去は、災害復興から生まれた居住弱者の危機。深刻な民法の問題だ」と話す。
 今後は、他の復興住宅も次々と借り上げ期間の満了を迎える。神戸、西宮両市の口頭弁論は2017年も引き続き行われ、この問題は前例のない司法の判断に委ねられる。


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阪神版
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