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1時間500円で気軽に自分の店を シェアストア「プレオープンズ」

2020.12.24

阪急山田駅直結の商業施設「Dew(デュー)阪急山田」。そこで、2年近く空き店舗だった場所が、複数の事業主が店を共有するシェアストア「プレオープンズ」として生まれ変わった。

店をシェアすることで、事業主の資金的、技術的なハードルを下げ、開業への一歩を後押しする。

 

開業の実験場“シェアストア”

「何が起こるか分からない。ここは科学実験場みたいなものです」。そう話すのは「プレオープンズ」を運営する向井務さん。

向井さんは、コーヒー豆の焙煎販売「みさご珈琲」(宝塚市)を営む傍ら、2014年から焙煎技術を教える「珈琲塾」を開講してきた。卒業生は150人を超え、中には開業を目指す人もいたが、資金調達や手続きの煩雑さが課題になっていた。

こうした状況を残念に思っていた中、「Dew阪急山田」の空き店舗の話が舞い込んだ。そこで、珈琲塾の卒業生らと共有できる店を計画、アーティストの笹原晃平さんらとこの場所を開設した。

「プレオープンズ」は、開業したい人のための最初のステップとなる場所だ。業種やスキルの制限はなく、1時間500円で誰でも利用できる。

店はキッチンスペースとイートスタンド付きの物販スペースからなる。飲食店営業、菓子製造業の許可を取得しているため、コーヒーなどのドリンクや軽食の提供も可能。商品の仕入れから、製造、宣伝、販売といった一連の流れを体験できる。

現在利用者として登録しているのは珈琲店、雑貨店、洋菓子店、アロマセラピストなど計14事業主。すでに自分の店を持っていても、人通りの多い商業施設内にある利点から、販売場所として利用する人も。税理士による無料相談会も定期的にあり、開業にあたっての資金面の不安や疑問にも答えてくれる。

 

小さなコミュニティーを紡ぐ場に

目を引くのは、天井で重なり合う4つの小さな木組みの屋根。国内外でインスタレーション作品を発表するアーティスト・笹原晃平さんによるものだ。

笹原さんはこれまで「コミュニティーとは、大きな一つの屋根ではなく、小さな屋根の重なり」というテーマで作品を制作してきた。

今回の“シェアストア”のコンセプトに共感し、内装を担当。小さな屋根が集まるように、事業主一人ひとりがつながって店が形作られていけばとの思いを込めた。

天井で小さな屋根が重なり合う店舗

 

2者が同時にシェアも可能 コラボ商品も生まれた

「プレオープンズ」の特徴は、利用者同士の合意があれば、キッチンスペースと物販スペースを別々の利用者が同時に借りられることだ。例えば、キッチンスペースでパティシエが洋菓子を製造し、物販スペースでコーヒー業者が自社のコーヒーと洋菓子を販売することもある。

こうした仕組みが、新しい商品を生み出すきっかけになっている。実際、前述の例では「コーヒーに合う洋菓子」というコンセプトで、利用者同士がコラボした焼き菓子「カヌレ」を販売することになったという。

笹原さんは「一般的には、他社とコラボして商品開発するのはかなり大がかりなこと。それがここではすぐに体験できる。シェアならではの形だと思う」と話す。

 

閉店状態の店舗もアート作品に

シェアストアは、特定の事業主をもたないため、利用者がいない時間帯はシャッターが下りた閉店状態となる。

笹原さんはその状態を「プレオープン」(開業前)と対比させ、「ポストクローズィング」(閉店後)という作品として展示する。利用者が増え、閉店状態が無くなれば自動的にこの展覧会は終了する仕組みだ。

作品「ポストクローズィング」

笹原さんは「おもしろいことをしたいという人のパワーに負けて、作品が消えていくのが美しいと思っていて。それぐらい利用者が増えて、さらにはここを卒業して自分の店を構える人が出てくれたら」と話している。

 

※利用時間など詳細は「プレオープンズ」ウェブサイトで確認を。

 

記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。