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CULTUREコラムVOL.20 梅花から「令和」を込めて

2021.06.04

梅雨の楽しみ方

小説家でアニメーション監督をされている、「新海 誠」さんをご存じでしょうか。「君の名は」(昭和の作品とは別です)、新しい作品では「天気の子」が知られています。これらより前に、「言(こと)の葉の庭」という作品があります。

雨の降る日、家を出たものの、気の向かない高校生の男の子が、授業をさぼって公園で雨宿りをします。見つけた屋根のあるベンチには、先客がいました。腰を下ろして目をやると、女性がひとり、お酒を飲んでいるのに気づきます。男の子は、昼間からひとりで変だなと思いながらも、持っていたスケッチブックに靴のデッサンを描きはじめます。降り続く雨・・・。ちょっと不思議な光景です。しばらくすると、ふたりは言葉を交わすようになるのですが、先に席を立った女性が、

鳴る神のしましとよもし
さし曇(くも)り雨も降らぬか君を留(とど)めむ
雷神 小動 刺雲
雨零耶 君将留
(巻11・2,513番歌)

と、歌を口にして去って行きます。その言葉に、男の子はハッとさせられます。そして、それが何なのかを調べます。

再び雨の降る日、男の子は同じ公園の屋根のあるベンチに向かいます。女性も来ていました。

鳴る神のしましとよもし
降らずとも我は留まらむ妹(いも)し留(とど)めば
雷神 小動 雖不零
吾将留 妹留者
(巻11・2,514番歌)

と返しています。

この二首は、『万葉集』巻十一「問答」の項目に、「右の二首」と記され、セットになっている歌です。先の歌は、「雷が少し(でよいから)鳴り、にわかに曇り雨でも降らないものだろうか、あなたを引き留めるだろうに」と詠み、あとの歌は「雷が少し鳴り、(雨など)降らなくても私は留まるでしょう、あなたが留めてくだされば」と答えています。男の子は次第に、雨が降る日を楽しみにしていきます。女性も楽しみにしていたと思います。

例年より少し早い梅雨入り。植物にとっては慈雨ですが、濡れるのは苦手です。それでもしばらく続く天候、季節にあう楽しみ方を見つけて過ごそうと思います。

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梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

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