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有害鳥獣による農作物の被害を抑え さらに地域活性化につなげる 茨木市の飲食店が処理業と販売業に挑戦

2021.07.28

創業25年「はなせ」の神野大助さん(左)と神野元さん(右)

茨木市上中条1丁目の和食料理の「はなせ」は、シカやイノシシのジビエ料理も売り物の一つだ。ジビエを出す店は増えているが、はなせには他にはない際だった特色がある。店主の神野元さん(45)が、食肉の処理業と販売業の許可を取り、自分でさばいたシカやイノシシを提供していることだ。茨木市を中心に他の飲食店にも卸してジビエの普及を図っている。取り組みの背景には、神野さんと父・大助さん(70)の「命」への思いがあった。

「はなせ」で提供するジビエ。「あっさりした味わいで美味しい」と常連からも好評のようだ。

自前で解体所をつくりシカ料理も提供

シカやイノシシによる樹木や農作物への食害は近年、大きな問題になっている。北摂の山々でも同様だ。各自治体は猟友会の協力などで有害鳥獣として捕獲しており、冬場の猟期には狩りの対象となる。ただ神野さん父子によると、イノシシは一般に食べられるため獲物とする人が多いが、シカは食材としてなじみがなく積極的に狩る人は少ない。殺すだけの猟は嫌われるからだ。有害鳥獣として仕留めても、シカはほとんどが廃棄されてしまっていた。

「せっかくの命がもったいない」。茨木市の山間部に畑があり、狩猟もする父子は「それならシカをもっと食べてもらえればいい。狩る人が増え農家の被害も抑えられる」と考えた。神野さんが正式に許可を取って、シカ料理の普及を進めることにした。店舗の4畳半ほどの倉庫を改造して解体所をつくり、昨年4月、茨木保健所から処理業と販売業の許可証が交付された。

有害鳥獣として、わななどでシカが捕獲されると連絡が入る。父の大助さんが現地に向かい、獲物をしめる。急ぎ店に戻り、神野さんが氷水で冷やしながら解体する。解体までの時間が長くなると肉に臭味が出るので、時間との勝負だ。こうしてさばいたシカ、イノシシは昨年、猟によるものも含め80頭余を数えた。

新鮮なシカ肉は美味地元の名物に

はなせでは、シカやイノシシのローストがメニューに並ぶ。たたきやステーキなどのシカのフルコースも予約すれば、4~5千円で食べられる。オムライスのミンチにシカを使い、カレーもシカの骨で出汁を取る。神野さんは「なるべくどの部位も捨てないようにしています。きちんと処理したシカ肉はさっぱりしておいしい。飲食店にとっておもしろい素材です」。香味野菜と煮込むスープもお勧めという。

その素材を多くの人に味わってもらいたいと、茨木市を中心に20ほどの店にシカ肉を卸す。衛生管理が厳格な牛や豚とは違い野生なので、衛生面などで信頼できる相手に限っている。「名物として地元の飲食店の活性化につながり、農業被害を防ぐことにもなれば」。神野さんはいま、やはり深刻な農業被害をもたらしているアライグマを食材にできないか考えている。こちらも味はとてもいいそうだ。

シカの猟には罠猟が使用される。

シカの角はキーホルダーに。

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