高槻出身のバンドマンが続ける「地元への恩返し」 高槻魂が3年ぶりの有観客開催へ
2022.10.05
2014年に始まった野外フェス「高槻魂」が、3年ぶりに有観客で開催される。ウルフルケイスケやオーイシマサヨシなど、豪華な顔ぶれのライブステージを無料で楽しめる点が大きな魅力だ。高槻魂を始めたきっかけは、実行委員長でもあり、ピアノロックバンド・GRAND COLOR STONEのフロントマンのナカノアツシさんが抱く「地元に恩返しをしたい」という思いがきっかけだった。
実行委員長 ナカノアツシさん
何もわからない状態から始め、苦労を重ねて成長した野外フェス
デビューして以降、東京で活動を続けていたナカノさんは、生まれ育った高槻に帰った折に「きっかけがあったわけでは無いのですが、地元のために何もしていないと、ふと思ったんです」。それから、「どうすれば地元に貢献できるのか」と考えるようになり、「やっぱり自分にできることは音楽しかない」との結論に至る。音楽活動からつながった友人に声を掛け、わずか3名で始動した。その後、前身となるライブイベントの開催を経て、2014年から高槻魂をスタートさせた。
高槻で長年親しまれているジャズストリートの運営に携わる人物を頼り、場所の確保や行政との折衝などのアドバイスを受けた。さらに、日本を代表するチャリティー音楽イベント「COMING KOBE」の運営に携わる友人からも、様々なノウハウを伝授してもらった。
2018年の様子
2019年には1万7000人を集めるほどに成長したが、当初から順風満帆だったわけではない。2014年は当初2000人を集める目標だったが、それを大きく超える約5000人が押し寄せた。想定を上回る入場者に対応しきれず、会場の音量の加減も手探りだったため、近隣住民から多くの苦情が寄せられた。そんな初年度の反省を踏まえ、2年目以降ナカノさんたちは会場周辺の自治会長のもとへ欠かさずあいさつに出向き、協力の依頼を行っている。音量に関しても、騒音計で測定したデータを示し、市や近隣住民からの理解を得るために手を尽くした。そうした地道な努力の甲斐あって、今では苦情はほとんどなくなったという。
「実行委員のメンバーが頑張ってくれているから」と語るが、自身も初回開催のころからスポンサーへの協賛依頼に奔走し続けている。「それまで名刺を作ったこともなくて、本当に未知の体験でした。今思えばとても失礼な話ですが、Tシャツに短パン姿であいさつに行ったこともあります」。それでも、「地元を盛り上げたい」という思いが伝わり、支援の輪も徐々に広がっていった。
1万7000人を動員した2019年の様子
広がる人の輪、地域の人々に愛されるために
高槻魂で大切にしているのが「地元の人に愛してもらえるイベント」であることだ。初年度から一貫して入場無料での開催を続けている。ただ、出演者の顔ぶれは無料と思えないほど豪華。高槻出身のウルフルケイスケなど地元に縁のある人だけでなく、オーイシマサヨシなど全国で人気のミュージシャンたちも多く出演する。過去には、矢井田瞳や花*花が出演したこともある。「もともとの友人に声を掛けたり、友人を通じて紹介してもらったりがほとんど」。開催を重ねるごとに人の輪がどんどん広がっていき、気が付けば豪華なメンバーが揃うようになったという。
また、「Webサイトの運営やステージの設営など、どうしてもお金が必要な部分はプロにお願いして、それ以外はほとんどボランティアです。居酒屋で働いている人、企業に勤めているサラリーマンなど音楽には関係ない人がほとんどですが、地元を盛り上げたいという気持ちは一緒です」。音響機材は江坂にある大阪創都学園キャットミュージックカレッジ専門学校に協力してもらい、学生にもスタッフとして参加してもらっている。学生たちにとっては野外フェスの運営をプロたちと一緒に取り組める貴重な経験となっているようだ。
とはいえ、無料で運営するからには限られた予算でやりくりする必要がある。過去には、ステージに屋根をつける予算が足りず、大雨でステージの一つが水没するアクシデントに見舞われたこともあったそう。「無事だったステージで出演者の演奏時間を調整してしのいで、ものすごく大変でした。でも、苦労したことでかえってお客さんと出演者、スタッフみんなに一体感が生まれたように感じました」とナカノさんは当時を振り返った。
高槻魂の雰囲気を「大人が作る学園祭」に例え、「大トリのステージからの景色を見て、『全ての苦労が報われたな』って気持ちを毎年味わわせてもらっています」と語るナカノさん。初開催から9年目を迎えた今でも、大勢の仲間たちと一緒に楽しみながら取り組んでいる。
これまで何度も「少額でも入場料をとった方がいいのでは?」との声があったという。「おじいちゃんやおばあちゃんが孫を連れて遊びにくる、なんて姿が理想なんです。もし入場料をとるようになったら、地元の人が気軽に来られなくなると思っています」と語る。ナカノさんの目標は「自分が死んだ後も続くくらい、地元の人に愛してもらえるイベントになること」。その思いを実現するべく、これからも入場無料で高槻魂を継続していく考えだ。
2021年、ライブ配信の様子
3年ぶりの有観客での開催、誰もが安心して楽しめる環境を目指す
コロナ禍の2020年と2021年は、無観客のステージを映像で配信するしかできなかった。今年、満を持して3年ぶりの有観客での開催を間近に控えている。ライブステージはもちろん、地元高槻の飲食店らが協力した多種多様な屋台も出店する予定だ。今年の見どころをナカノさんに伺うと「豪華な顔ぶれのライブを無料で楽しめるのが何よりいいところです。日ごろたまっているストレスを会場に置いて帰るつもりで楽しんでください」と語る。その一方で、ファミリー層にもぜひ足を運んでほしいという。「お子さん連れにとっては、ライブでダイブやモッシュが起きると怖いですよね。僕らのイベントは最高のピークでも手拍子くらいのテンションで、誰でも楽しめるようにしたいと毎年考えています。ぜひお子さん連れも気軽にお越しいただいて、『大人たちが作った学園祭』の雰囲気を感じてください」。
高槻魂!!
10/9(日) 高槻市立桃園小学校(予定)
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