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CULTUREコラムVOL.4 梅花から「令和」を込めて 「日本語を漢字だけで書いてみると…」

2019.11.26

奈良時代の日本語は、固有の文字を持ちません。書き留めることが求められると、漢字だけを使って記す文化が育まれました。いわゆる万葉仮名(まんようがな)が、その代表です。『万葉集』巻七には「摂津にして作る」と題した中に、次のような歌が記されています。

五七五七七で読むことを考えると、どこで区切ったらよいものか・・・。初句を「命」だけで捉えてみると、「いのち」に二文字を読み添えます。「命幸」と二文字で読んでみると、「いのちさきく」と字余りになります。うまく読み通すことのできない歌を、私たちは難訓歌(なんくんか)と呼んでいます。幾通りかの読み方が試されていますが、仮に「命をし幸(さき)く(久)吉(よ)けむと石流(いはばしる)垂水(たるみ)の水を結びて飲みつ(都)」と読んでみましょう。「(私の)命が無事で良い状態にありますようにと(祈りながら)、岩の上を勢いよく流れ落ちる滝の水を、(手で)寄せ合わせて(すくって)飲みました」と訳すことができそうです。作者は旅の道中なのでしょうか。自らの命が健やかであることを、激しく流れ落ちる滝の水を飲んで、祈願したことを歌にしています。

「垂水」は滝の普通名詞ですが、地理的な特徴は地名にもなります。吹田市には垂水町を探すことができます。垂水神社には、『万葉集』から志貴皇子(しきのみこ)の歌(巻八・一四一八番歌)が、碑として建立されています。また、神戸市には垂水区を見つけられます。平磯緑地には何首もの万葉歌碑が建立されいて、一一四二番歌も読むことができます。

作者はどこの滝の水を飲んで、命をつなぐことを願う歌を詠んだのでしょう。

梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

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