吾翔けるvol.28 -会社を経営して思うこと-

作家といえば、一人で働いていると思われるだろう。それは間違いではない。一人で活動している人が大半である。稀に誰かにスケジュール管理や雑務を任せている作家もいるが、それでも一人か二人であろう。

私の場合、会社を作り、遂に十七人の正社員を抱えることとなってしまった。アルバイトスタッフを含めれば三十人を超える。
何故、それほど多いのかというと、最大の理由は書店という実店舗があるということだ。彼ら書店業務に従事する面々は、うちの会社ではそのまま「書店組」と呼ばれている。

しかし、その書店組を除いたとしても、私以外に七人の内勤スタッフがいる。執筆のサポートのほか、講演やＴＶの窓口、ホームページや動画の作成、書店組の後方支援、全てこの「内勤組」が行っている訳だ。

これほど人を雇っているので「大変ですね」と、よく言われる。この場合大抵、「食べさせていくのは」という意味である。まあ、それも常に念頭にはあるのだが、大変なのはマネージメントである。これだけの人数になってくると、人員の配置や、仕事の分配に対して、組織的な動きが求められるようになってくるからだ。

これが創作に役に立っていない訳ではない。規模は全く異なるものの、武田信玄もこんなことで悩んだのか、織田信長のこの行動にはこのような意味があったのではないか、などと思考を巡らせられるからだ。事実、会社を経営していなければ、この秋に刊行される『五葉のまつり』などは、書けなかったのではないか。作家にとって学ぶべきことも多いのである。

何より、私は楽しんでいる。作家という職業は孤独なもので、執筆だけを行っていると気を病むなんてこともある。私も五年ほど前まで、一人でやっていた時は、かなり危ない精神状態にまで追い込まれていた。こういった時、家族に支えて貰ったり、趣味を持ったりして乗り越える人が多い。が、私は独り身であるし、趣味らしいものも無かった。
しかし、今はそのように追い込まれることは少なくなった。個で行うことと、衆で行うことのバランスが取れているらしい。振り返ってみれば、作家になる以前、私はずっとそのようにしてきた。急激に一人作業になったことで何かが崩れたのだろう。

敢えて言うならば、「皆と何かをする」ということが趣味なのかもしれない。出版不況が叫ばれる中、少しでも明るい話題をもたらす作家事務所になればよいと思っている。