吾翔けるvol.31 -私が書店を守る理由-

経済産業省が書店振興のためプロジェクトチームを立ち上げ、私もそれに携わっている。大臣との対談などのために、霞が関にも足を運んだりするのだが、このような時には決まって、

──きのしたブックセンターから始まったのだな。

と、考えるのである。

私が阪急箕面駅からほど近い、きのしたブックセンターを事業承継したのは、２０２１年の夏のこと。そこから数か月の改装期間を経て、11月にリニューアルオープンさせた。それをきっかけに、出版業界のことをより詳しく学ぶようになった。業界の様々な立場の人から取材を受け、そこでも知識を得ることが出来た。今や作家の中では、出版業界に最も精通している自負さえしている。

以前ここでも書いたが、出版業界を取り巻く状況は厳しい。まず構造的に無理が来ている。昭和から平成初期までは通用していたが、紙の値段や物流費の高騰、人件費の上昇、書籍購入率の減少、それらが今の構造に織り込まれていない。この三十年で書店の数は二万店から、半数の一万一千店に落ち込んだ。市町村に一軒も書店が無い「無書店自治体」は全国で27・７％にまでなっている。今後、書店はさらに減少するだろう。恐らくはこの５年で、さらに２～３千店は消えるのではなかろうか。

売上不振が原因の場合もあるが、書店主の年齢のボリュームゾーンが60～80歳であることの影響も大きい。後継者がいないため事業承継を行えず、仮に利益が出ていても閉店しなければならない場合があるのだ。

そもそも何故、書店を守らなければいけないのか。そう思う方がおられても不思議ではない。他にも苦しい業界は山ほどある。

一つには文化的な側面が大きいだろう。衣食住が最優先されるのは当然だとしても、人が人であるためには必要だと思う。だが、この文化というのは甚だ厄介なもので、注ぎ足し注ぎ足し作って来たタレのように、一度作り続けるのを止めてしまうと、再び構築するのが極めて難しくなる。書店はいつか滅ぶのかもしれない。すくなくとも我々が想像する形での書店は。資本主義の世の中で、このように消えゆく産業はこれまでも沢山あった。

斜陽産業だと言われて久しいにもかかわらず、その中でも既得権益が存在し、それを死守しようとする人々さえいる。自分が生きている間だけ業界があればいいとでも考えているのだろうか。若い世代の挑戦の妨げになっていることも往々にしてある。他業界でもよく聞く話だが、出版業界でも例に洩れないらしい。

何故、このような活動をするのかとよく問われる。散々悩んで来たが、最近では、
「私が好きだから」
と、答えるようにしている。私はこの業界が好きで、勝手に救われたと思っている。乗り掛かった船だから、たとえ沈む日が来ても、その瞬間まで心中してやろうとも。

私は書店が必要だと思っている。だから最期の時まで抗おうと思う。その覚悟を決めさせたきっかけは、北摂箕面にある小さな書店だったことは確かである。