-池田市- 石橋商店街の古民家に生まれる新しいカタチの公民館
2026.07.30
阪大生ボランティアの中村衣里さん(左)と いしばしコモンズ代表理事の菱田伊駒さん(右)
石橋商店街の一角にある築100年の古民家を改装した、「ハムと本と、」(池田市石橋1-11-6)が8月1日にオープンする。書店やハムの販売を行いながら、地域の居場所にもなる新しいカタチの公民館。仕掛け人は、学生時代から石橋に住む一般社団法人いしばしコモンズ代表理事の菱田伊駒(ひしだ いこま)さんだ。
商店街がもう一つのキャンパスだった
菱田さんが石橋のまちと関わり始めたのは、大阪大学に入学した2009年のこと。当時の大阪大学は、大学がまちに出て地域と結びつく「社学連携」の気運が広がっていた時期だった。その流れの中で、阪大生と石橋商店街が手を組んだサークル「石橋×阪大」を発足し、商店街を「石橋キャンパス」に見立てて活動が始まった。菱田さんは創立メンバーの一人として加わり、後に二代目代表を務めた。宝塚の新興住宅地で育った菱田さんにとって、昭和の面影が残る商店街は、それまで知らなかった人間味あふれる居場所だったという。
大学卒業後、就職したものの長くは続かず、「やっぱり商店街で何かやりたい」という思いから、石橋商店街のタローパンに就職。パン職人として約10年働きながら、子どもたちと哲学を語り合う哲学塾の運営や、B型作業所の立ち上げなど、まちづくりや福祉に携わってきた。そうした積み重ねの先、2023年に非営利型の一般社団法人「いしばしコモンズ」を設立し、代表理事として活動を本格化させる。まちの居場所づくり、教育と対話の実践、アートによる地域連携という三つの柱を掲げ、学校に出向いての対話授業や、不登校支援団体との連携など、まちとの関わりをさらに深めていった。
活動を続けるなか、築100年・二軒長屋の空き家のオーナーから、「家を活用してくれないか」と話をもちかけられた。荒れた庭と、物であふれた家を掃除するところから始まり、庭で野菜を育てたり、夏には流しそうめんをしたりしながら、学校に行きづらい子どもたちの居場所として少しずつ活用をしてきた。ただ、イベントのときにだけオープンさせるのでは、本当の居場所として成立しない。何か困ったとき、誰かと話したいときに、自由に立ち寄れる場所とは何か。そう考えたときに浮かんだのが、書店という選択肢だった。「書店って何か買わなきゃとか、用事がなくても、ふらっと入って時間をつぶせる場所だと思うんですよ。そういう場所って意外と少ないんですよね」。
新しいカタチの私設公民館
そして8月1日(土)、この古民家に新たな拠点「ハムと本と、」がオープンする。1階には、池田市で店舗を構えていた「まがり書房」が移転するほか、石橋にハム工房を構える「ハム横山」がハムを主役とした軽食も提供する。手がける横山さんは、障がいのある息子との関わりを通じて、福祉の枠にとどまらない形で人とつながる仕事を模索していたところ、菱田さんの思いに共感し、出店を決めたという。北摂産の地酒やワイン、コーヒーも楽しめるカフェバーも併設され、誰でもふらっと立ち寄って本を選んだり、買い物をしたり、商店街の一店舗として開かれている。店名の「と、」という一文字には、「これからここに関わる人や活動がどんどんつながっていってほしい」という思いが込められている。そして、菱田さんが「私設公民館」と呼ぶのは、公民館のような枠組みを先につくったからではなく、買い物に立ち寄れる場所として機能しながらそのまま居場所にもなる。そんな設計を意識してこの場所はつくられているからだ。
2階は「いしばし子どもブッククラブ」と名付けられた子どもの居場所だ。「学校に行きづらい日は書店へ、と思ってもらえるような場所を目指したいです」と菱田さんが話すように、ボードゲームや絵本の読み聞かせ、発達障害や子育てをテーマにした大阪大学の教員によるセミナーも予定している。
全国的に書店のない「無書店地域」が増え、この20年で書店の数が6割減ったとされる中、石橋阪大前からも新刊書店が姿を消していた。菱田さんは、そうした状況に危機感を抱きながら、書店として長く商店街にありつづけ、地域に開かれた居場所としても育てていきたいと考えている。

古民家の雰囲気を残しつつ、床を張り替えリノベーション。書店とハムやサンドイッチを販売。


引き渡された当時の古民家。伸び放題の植木やゴミも散乱していた。
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