古墳クリエイターが教える今城塚古墳公園の楽しみ方
2020.07.16
2019年に日本経済新聞のWEB媒体「NIKKEIプラス1」の企画、専門家が選ぶ全国古墳ランキングで1位になった今城塚古墳。緑があふれ、散歩やスポーツ、仕事のお昼休憩、子どもたちの遊び場として、高槻市民にはおなじみの場所だ。しかし古墳としての価値についてご存じの方は少ないのではないだろうか。
そこで、イベント企画やグッズ製作などを通して、古墳の面白さ、奥深さを伝える古墳クリエイター・マキリエさんに、今城塚古墳の歴史を学びながら、気軽に楽しめる見どころを教えてもらった。
メガネをかけるとマキリエさんのご主人そっくりになるという埴輪。
総長約350m、総幅約340mある今城塚古墳は、全国でも珍しい古墳の中に入れる公園として2011年にオープンした。まずは入り口付近の埴輪祭祀区へ。日本最大といわれ、170㎝もある家形埴輪をはじめ、武人や動物など歴史的価値のある埴輪が出土した場所といわれている。「こんなに埴輪が並んでいるのは、大王の魂を鎮める儀式を再現しているから。埴輪は1kmほど離れた新池埴輪窯(現在のハニワ工場公園)で焼かれ、ここに運ばれてくるんです。しかも何千と。一体どれだけの人が関わっていたのかなとか、想像をかきたてられます」。最近ではSNS映えするスポットとしても注目を集めているそうだ。「影のつき具合で笑ってるように見える、雨粒があたって泣いているようにみえるとか、一つひとつ表情が違うんです。お気に入りを見つけてSNSに投稿してみるのも面白ですよ。この力士埴輪なんて眼鏡をかけるとうちの主人そっくりなんです」と個性的な楽しみ方も教えてもらった。
当時の最先端の土木技術を駆使してつくられたという造り出し。
次に案内してもらったのは芝生が広がるエリア。「造り出し」という前方後円墳のくびれ部分にあたる場所だ。「この造り出しは前方後円墳のなかでも古く、5~6世紀頃にみられた手法です。こんなに近くで見られるのは珍しい。曲線美がなんともいえません」。またマキリエさん個人もお気に入りの場所だといい、「天気のいい日は古墳を感じながら寝転がったりします。春はシロツメグサが一面に広がり、公園のなかでも一番美しい場所になります」。
大王の石室があったといわれている前方部をはじめ内部を自由に歩くことができる。
この今城塚古墳は、6世紀前半につくられた継体天皇(聖徳太子の曽祖父)の陵墓。1953年には国指定文化財に認定されている。「大王(天皇)の古墳の中に入ることができませんが、日本で唯一ここだけは入れるんです。私は超ラッキー古墳って呼んでいます」。大王の陵墓となれば、普通は宮内庁が管理するため入ることができなくなる。ではなぜ入れるのか。「明治時代に宮内庁は継体天皇の陵墓は茨木市の太田茶臼山古墳にあると定めました。しかし、戦前に再調査したところ、文献や築造年数の違いから本当は今城塚古墳が大王陵ではないかといわれるようになったのですが、宮内庁の判断は変わらず。以降、今城塚古墳は“真の大王陵”と呼ばれ、自由に出入りができる日本初の大王陵となったのです」。
「古墳も作品のひとつだと思うんですよ。クリエイターとして手掛けた作品が数千年も伝わっていくんだと考えるとすごいですよね」とマキリエさん。
前方後円墳の前方角の部分。「古墳にも向きがあるんです。前方後円墳って鍵穴の形をしていますが、実は円形部分が後ろで、この場所は前になるんです。シュッと広がる角がキレイでしょ。隠れた見どころなんです。周りに並んでいる円筒埴輪は魔除けの意味が込められているんです」とマキリエさん。
独自の視点で古墳の見どころを教えてくれるマキリエさん、この感覚は子どもの頃に身についたという。「父親の仕事の都合で2、3年ごとに引っ越す転勤族でした。さまざまな場所を見てきたからこそ、その土地の良さを見抜く視点が身についたんだと思います」。そして高槻には15年前に引っ越し、古墳に出会った。「当時はこの公園の近くに住んでいて、家族でよく遊んでいたお気に入りの場所でした。ママ友にその良さを教えても反応は薄く、どうすれば興味をもってもらえるのか考えるようになったんです」。その後、試行錯誤を繰り返しながら、有志を募ってイベントを企画したり、グッズ製作を行うようになったという。「歴史が苦手なのに古墳の知識が自然と身についたり、色んな人に声掛けしてイベントを立ち上げたり、自分でもびっくりするくらいの熱量で取り組んでました。自分の好きな場所を知ってもらいたい、高槻にはこんなにいい場所があるんだということを知ってもらいたいという想いにつき動かされたんだと思います」。今では3万人を導入するイベント「古墳フェスcome come* はにコット」の企画・運営をはじめ、メディアへの出演をはじめ「古墳クリエイター」として活動の幅を広げている。
全国に点在する古墳はなんと15万基もあるという。「実はコンビニの3倍あるんですよ。歩けばすぐに見つかるコンビニの3倍ですよ、すごくないですか。日本人にはもっとも身近な文化遺産です。しかも日本でも珍しい古墳が高槻にあるっていうことをもっと知ってもらいたいですね」と熱く話すマキリエさん。いつもの馴染みの場所も、改めて見つめなおしてみると面白い発見があるかもしれない。
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