吾、翔けるvol.1-はじめまして、今村翔吾です-

皆様、はじめまして。今村翔吾と申します。主に歴史小説、時代小説を書く作家をしております。今回から『シティライフ』にエッセイを連載させて頂くことになりました。私の日々のこと、歴史の小話、また北摂地域についてなどを書き綴ってゆく所存です。

自慢のようになってしまうかもしれませんが、私は現在、週刊誌、小説誌、新聞など八つの連載、他にシリーズ小説を二つ、漫画原作を二つ抱えており、ありがたいことに「今、日本で最も多忙な作家」などと言われることもあります。今ならばエッセイの依頼があっても、お断りするか、数年待って頂けるようにお願いするでしょう。が、このエッセイに関しては「やるよ」と、二つ返事で受けてしまいました（笑）。

それは何故か。少し大袈裟に言うと、北摂地域に恩返しをしたい。少しでも力になりたいという思いがあるのは嘘ではありません。

私は京都府木津川市の生まれ。現在は滋賀県大津市に住んでいます。これまでは北摂地域とはあまり縁がありませんでした。しかし昨年、これが縁を頂くことになったのです。

箕面市に「きのしたブックセンター」という街の本屋さんがあります。六十年近い歴史があり、最盛期には四店舗あったそうです。この本屋さんが後継者を探しているという話が、ひょんなことから私の耳に入ったのです。今すぐに廃業するという訳ではないが、社長さんのご年齢にも鑑み、後継者が見つからなければ、いずれはと考えておられたようです。

確かに同じ業界ではあるものの、作家と書店は違う。最初は難しいだろうなと考えていたものの、ここが無くなってしまえば、箕面駅から徒歩で行ける書店が無くなってしまうと聞いたことで、まずは行くだけ行ってみようと足を運んだのが昨年、2021年の春のことでした。

きのしたブックセンターにて。

サイン会の様子

雨が篠（しの）つく日だったのを覚えています。店内にお客さんは一組。小学二年生くらいの女の子と、お祖母ちゃんらしき女性。二人で絵本を選んでおられました。私もかつて祖父母に本屋さんで沢山の本を買って貰いました。それが本好きになるきっかけで、遂には作家にまでなったのです。この光景を目の当たりにし、「この本屋さんが無くなってしまえば、女の子のお祖母ちゃんとの思い出まで無くなってしまうのか……」という思いが過りました。その直後、私は事業を引き継ぐ旨を伝えたのです。

そして働いている書店員さんの雇用も全て引継ぎ、夏に改装工事を行い、11月１日に新装オープンを果たしました。この機会に「今村書店」や「今村堂」など本屋さんの名を変えることも可能でしたが、あえて「きのしたブックセンター」のままとしました。地域に愛されて来た名を、思い出ごと受け継ぎたいと思った次第です。

こうして北摂、箕面市に私は縁を頂き、私にとっては本当に大切な地になっています。再スタートしてまだ半年ですが、残してくれてよかったというお声を多くのお客様から頂き、元は余所者の私と事務所のスタッフを受け入れて下さっています。

そんな箕面を含む北摂地域の情報紙です。断れないでしょう（笑）。むしろ私でよければ喜んで書かせて頂きます。どうぞ末永くよろしくお願い致します。

幸村を討て（中央公論新社）
亡き昌幸とその次男幸村――何年にもわたる真田父子の企みを読めず、翻弄される諸将。戦国最後の戦い「大坂の陣」を通じて描く、親子、兄弟、そして「家」をめぐる、切なくも手に汗握る物語。