
【SDGs】吹田発のベーカリーが形にした「もったいない精神」
クラフトビールに使うモルト(麦芽)の搾りかすを使った、アップサイクルフード「BEERGRAINZ(ビアグレインズ)」。手掛けるのは関大前で20年以上営業を続けるベーカリー、ラパン。副社長である久保恵理さんに話を伺った。

忙しくてゆっくり食事をする暇がない人に人気のシリアルバー
なかなか料理や食事の時間をとれない人でも、手軽に素早く栄養補給ができるということで注目を集めているシリアルバー。実際に、客層には多忙な中でも健康を気づかうビジネスパーソンが多いそう。大切にしているのは、「栄養豊富で美味しくて安全」であること。ラパンが作る商品は、上質な素材を生かしつつ、添加物を使わない点にもこだわっている。
始まりは「もったいない精神」から
BEERGRAINZをはじめとしたアップサイクルフードを作るラパンは、1999年から吹田・関大前で営業している地元のベーカリーだ。添加物を使わず作るパンはどうしても長持ちせず、早朝焼きあげたものを夕方には廃棄せざるを得ない問題があった。「食べられるのにもったいない」とずっと感じていた久保さんは、そんな思いから、自家製パン粉を使った串カツ屋を2016年江坂で始めた。
さらに転機となったのが、渡米の機会を得たことだった。百貨店のニューヨークフェアを担当することになり、年に数回アメリカに渡っていた久保さん。現地で交流を深める中で、環境問題への高い意識を感じ、「自分たちも何かできないか」と考えるようになった。
そして考え付いたのが身近な食材である「おから」の活用だった。もともと豆腐やおからが好きでよく料理に使っていた久保さんだけに、一部のおからが廃棄されている現状もよく知っていて、おからを使った「OKARADA」の誕生へとつながった。「豆腐の製造過程で生まれる副産物のおからも、モルトの搾りかすに負けず劣らず栄養豊富。食物繊維とたんぱく質が豊富でさらに低糖質なんです」。

優れた栄養素が注目されてか、近ごろクッキーやケーキの素材におからを使った商品が増えているそう。ただ久保さんによると、「粘り気が少ないおからはどうしてもパサパサした食感になりやすく、米粉や小麦粉を加えがちです」。そんな弱点を克服したのがOKARADAだ。その後、おから以外の原材料としてワインやお酒の搾り粕などに注目する中、地元関西のクラフトビールメーカとの出会いを経て、BEERGRAINZシリーズの開発へと至る。


広がり続けるアップサイクル。グラノーラやクラフトコーラも
そのほかにも、規格外の野菜をドライフルーツやナッツと合わせたグラノーラなど、開発するラインアップは多種多様。なかでも、ここ最近注目度が高まっているのはクラフトコーラだ。「大阪らしいクラフトコーラを」と始めた開発だったが、いわゆるご当地コーラに使われるような、地方ならではの野菜や果物となかなかめぐり会えなかった。そんなとき、「もともとコーラは薬剤師が開発したもの」と知り、現在も薬の町として有名な大阪市の「道修町(どしょうまち)」と結びついた。4代続く製薬会社のサポートを得ながら、活力を高めるといわれる生薬のエゾウコギを使った「道修町コーラ」が誕生した。いわゆる「漢方っぽさ」は控えめで、クローブやシナモンなど多彩なスパイスが生みだす豊かな香りと刺激が、心地よい清涼感を与えてくれる。「ソーダで割るのはもちろん、牛乳を入れてチャイにしたり、ワインに入れてサングリアにしたり、スパイスカレーの隠し味に使ったり、いろいろな楽しみ方ができますよ」と久保さん。
育ててくれた地元に恩返しを
今では「こんな食材が余ってしまうんですが」と相談を持ち掛けられるようになった久保さんだが、最初のころはSDGsという言葉を知らなかったそう。「昭和世代の両親に『電気はすぐ消す』とか『お風呂は続けて入る』と言われて育ちましたから、やっぱり原点にあるのは『もったいない精神』です。SDGsを意識したのではなく、『もったいない』気持ちを形にしているだけなんです」。取り組みを始めた4年前は、「なんで捨てられるものなんかで商売をするんだ」とネガティブな言葉をかけられる経験もした。ただ、ここ最近は応援する声が増え始めているという。
アメリカ西海岸のシリコンバレーでの販売にも挑戦する一方で、ずっと大切にしているのが、地元への愛着だ。その思いを形にするべく、ギフトセットの販売にも取り組み始めた。梅田などの大都市に行かなくても、日々のプレゼントやちょっとした手土産を地元で手軽に買えるようになることを目指している。
「スタートは吹田のベーカリーですから、やっぱり地元の人たちに重宝してもらえる店でいたいと思っています。いろんなシーンに使えるギフトを開発して、地域の人にとって『自慢の逸品』と思ってもらえるように」と語る久保さん。今後の事業拡大を見据えつつ、地域に根差す店であり続けることも目標に掲げている。
記事作成日:2022年8月
