が、それらの賞の記入を止めてでも、私の場合は絶対に消えない一文がある。――元ダンスインストラクター。という肩書きだ。前職を記すのが一つの定型なのかもしれない。
私はダンスインストラクターと作家の間に、三年ほどの短い期間とはいえ埋蔵文化財調査員をしていたので前々職になるが、私の知る限りダンスインストラクターをしていたという作家は聞いたことがない。ましてや歴史時代小説家が、だ。読者の驚きも大きく引きがいいのだろう。最近ではこれを笑い話としているが、実際、私が作家になってからの年月より、ダンスインストラクターとして活動した期間の方が長い。
直木賞を受賞した後、宮城谷昌光先生と対談をさせて頂いた時である。宮城谷先生は開口一番、「何故、あなたの小説の大半は、子どものシーンから始まるのか。そしてその描写にリアリティがある。自身の思うところを教えて下さい」と、尋ねられた。