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TOP > 〈特集〉直木賞作家・今村翔吾さんの連載コラム「吾、翔ける」 > 吾翔けるvol.7-読書してますか?-
最近、本を読めていません。「作家なのに?」と、思われる方も多いでしょう。月に2、3冊は読めますが、その大半は執筆のための資料になっています。私が本を読み始めたのは小学5年生の7月のことですが、それから22、23歳くらいまで、少なくとも年間100冊の本を読んできました。最も多い中学2年生の時は140冊くらい読んでいたことが、当時記録していたノートを見れば解ります。
どうやってそれほど読んで来たのかと尋ねられることがよくあります。私は京都府南部の木津川市の出身ですが、16歳から相楽郡の精華町というところに引っ越しました。近鉄京都線高の原駅のそばと言ったほうが地理的に判りやすい人もいるかもしれません。 中学受験をし、奈良の中高一貫校にそこから通っていました。高の原駅まで徒歩約30分、高の原駅から近鉄奈良駅まで乗り換えなども含めれば30分近く掛かることもあります。さらにそこから徒歩30分で学校です。 電車の中ではいつも本を読んでいました。集中し過ぎて乗り過ごしたこともあります。物語のラスト数ページに差し掛かっていたため、「ここはどうしても一気に読みたい」と、ホームのベンチに腰を下ろして遅刻しかけたこともあります。いや、正直なところ遅刻したこともあったと思います。
そして徒歩です。私は毎日の行き帰り、文庫を読みながら歩いていました。今ではスマホなどの画面を注視しながら歩くことを、禁止する条例が全国的に作られているようです。しかし、当時は歩きながらの読書は二宮金次郎を彷彿とさせ、むしろ美徳だとさえ思われていた節があるからお許し下さい。 人はこんなことにも慣れるようで、本に熱中しながら電信柱は避けるし、背後から車が迫れば早い段階で察知して道を開けられるようになりました。もっとも当時、走行音が静かな電気自動車があれば察知出来なかったかもしれません。繰り返し言いますが、歩きスマホも、歩き文庫も駄目です。周囲に注意して歩きましょう。ただ、どうやってそれほどの量を読めたか、正直に答えるとこうなる訳です。
何を言いたいかというと大きく二つ。一つは、読書習慣を付けられない方は上記の例は別として隙間時間から始めてみてはどうでしょうかということ。ほんの数分からでも読書は始められる手軽な趣味です。 もう一つは、本を読んで来てよかったと私が思っていることです。決定的な利点は挙げられないのですが、まず語彙力は圧倒的に増えます。そして想像力も付く。これらはなかなか数値で出ないですが確かな実感があります。私のように創作に携わる職でなくとも、様々な局面で役立つと思います。生涯年収と読書量は比例するという調査結果もあるようです。もっともこれは読書習慣があるから仕事で成果を出せるのか、暮らしにゆとりがあるから本を買う余裕があるのか、卵が先か鶏が先かの話にはなりますが、一つの事実としては確かです。
ここまで読書の有用を語っていながら、冒頭に言ったように最近はなかなか読めていません。「読む」より「書く」の暮らしになってしまいました。ただ若い頃、多くの本を読んだことは、作家としてやれている要因の一つです。 とはいえ、一読書ファンとしては、やはり好きな本を読む時間が無いのは寂しいものです。何処かロッジを借り、ハンモックに寝そべり、ゆったりと読書をする。そんなことが今のささやかな夢ですが、連載七本を抱えている身では、もう少し先になるかもしれないと溜息を漏らしています。
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