主人公は松永源吾【まつながげんご】という火消。火消というと、一般的には「め組」などの町火消を想像する人が多いが、本作の主人公は武家火消である。武家火消は実は町火消よりも歴史が長く、さらにその中でも八丁火消、定火消、所々火消、方角火消など様々な種類に分かれている。松永源吾は出羽新庄藩の火消頭であり、江戸城を守るためならば、管轄を越えてどこにでも駆け付ける方角火消である。
この時代の火消について語りだせば、原稿用紙数枚では足りないので、ここでは一旦置いておこう。
このシリーズを読んでいない人から最も言われるのは、
「そんなにネタあるの?」
と、いうことだろう。実はある。江戸の町では小火【ぼや】から町々を焼く大火まで含めると、一年間に三百から四百もの火事があった。つまり毎日、何処かが燃えているのである。
ゆえに、火事そのものを描けばよく似たものになる。しかしそこに至る経緯を紐解けば、描ききれない程の物語があると思ってこのシリーズを始めたのである。