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TOP > 〈特集〉直木賞作家・今村翔吾さんの連載コラム「吾、翔ける」 > 吾翔けるvol.20 -初の掌編小説に挑戦-
先月、拙作『戦国武将伝 西日本編』『戦国武将伝 東日本編』が同時に刊行された。47都道府県から一人ずつ戦国武将を選び、それぞれを掌編小説として書き上げたものだ。
掌編とは何かの話をしよう。まず400字詰原稿用紙約300枚以上の作品を長編などという。300枚というのも実際は曖昧であり、あくまで目安である。1000枚を超えるものも長編とされるので、差があるというのが実態だ。
次に100~200枚程度を俗に中編などという。これは大衆文学作品では以外と少なく、純文学などに多い傾向があるだろう。 さらに短いものを短編という。一般的には30枚~80枚程度の作品が多い。その中でも特に20枚以下の作品。それを掌サイズの作品という意味で掌編というのだ。ショートショートといった方が耳馴染みある方も多いのではないか。SFの大家、星新一氏などが特に著名である。 私は歴史小説を読み漁って来たと自負しているが、このジャンルにおいての掌編集、ショートショートというのは読んだ記憶が無い。出版関係者や識者にも聞いてみたが返答は同じだった。つまり史上初の歴史掌編集となる。海外はいざ知らず、恐らく日本ではそうなるのではないか。 『戦国武将伝』はPHP研究所の雑誌『歴史街道』に2019年から2023年まで、毎月1作品を連載した。こうして本になった時の感想としては、「もう二度とやりたくない」というのが本音である。いや、本当に大変だった。もう一度やれと言われても出来ないというのが正直なところである。
全作品を合計しても原稿用紙は900枚前後だと思う。私が直木賞を受賞した『塞王の楯』が約1000枚なので、それよりも少ないことにはなる。しかし、やはりこちらのほうが数倍は労力が必要だった。一般的には長編のほうが書くのが大変だと思われがちだが、掌編の方がある意味難しいと私は思う。厳密に言えば、マラソンと短距離走のように、使う筋肉が全く違うというほうが適当だろう。幾ら枚数が少ないとはいえ、一つの物語であることには違いない。その中でやれる精一杯を盛り込み、あるいは削っていかねばならない。 それを47作品。しかもそれぞれの都道府県に所縁のある人物縛りで。一体、誰がやろうと言い出したのだと文句を言いたくなるが、それは私なのだからどうしようもない。 ただ全てを書き終えた今、一つ言えるのは相当な修行になったということ。これをやり終えたことで、作家として新たな力が付いたと実感している。 こうして小言を零していても、また私は誰も挑戦していない新しい小説に臨むだろう。それは読者の方に喜んで頂きたいというのが一番であるが、まだまだ作家として成長していきたいと考えているからだ。 一つ一つはすごく短い話なので、歴史小説に馴染みの無い方も読みやすくなっているとは思う。あなただけのお気に入りの物語を見つけて頂ければ、著者としてそれ以上の幸せは無い。