吾翔けるvol.21 -大晦日の過ごし方-

この原稿を書いている今は大晦日である。２０１８年の１月１日から、現在２０２３年12月31日まで丸六年間、一日たりとも原稿を書くのを止めたことはない。謂わば２１９０連勤中である。いや、閏年もあったから２１９１連勤か。ともかくずっと書いている。

これは私の師と仰ぐ作家、北方謙三氏の「作家の技術は一日休めば三日後退する。幾ら疲れていても、たとえ少しであろうとも書かねばならない」との教えに拠るものだ。いや、もはや脅しだ。あるいは呪いだ。この有難いお言葉がずっと頭の中にこびりついており、風邪で高熱を発しても、溜息を漏らしながら原稿を書くのである。

そもそも私は幼少期から、家族で紅白歌合戦を見るとか、初詣に行くとか、よくある年末年始の過ごし方をしたことが無かった。
まず私の前々職がダンスインストラクターだということはご存じの方も多いかもしれない。これは謂わゆる家業であり、私の他にも弟を始め親戚が加わっていた。あまり話したことはないが、この会社はダンス教室の経営だけでなく、イベント業も行った。大晦日には各地で複数のカウントダウンイベントが開催される。そんなに多いかと首を捻る方もおられるかもしれないが、実は結構な数が催されている。故にほぼ毎年、カウントダウンイベントの仕事を受注していた。

では、その前はというと、やはり普通の大晦日ではなかった。私の祖父は町の神主を務めていた。それほど大きな町ではないので一人で複数の神社の管理も行わねばならないし、巫女さんを雇うような予算も無い。こうなれば一族郎党が駆り出される。私も物心がついた時にはお神酒を注いだり、御札やお守りを頒布したりと、祖父を手伝っていた。

おみくじの吉凶の番号は記憶してしまい、期待に胸を膨らませる参拝者に対し、「うわー、凶やねんけどな」などと内心で苦笑しつつ、お授けしていたことも覚えている。

このような環境で育って来たから、今になっても大晦日に「働く」ことにあまり違和感を覚えないのかもしれない。

祖父は私とは違って物静かな人であった。孫には優しく様々な場所に連れていってくれたことを覚えている。上野動物園で初めてパンダを見たのも祖父と一緒だった。

土筆や椎の実の食べ方を教えてくれたのも祖父だ。手先が器用で模型の類はあっという間に作ってしまい、絵もなかなかに達者であった。その中でも特に見事だったのは書で、実は橋など揮毫が今も残っているものがある。私が筆を取る時、足元にも及ばないものの、頭の中で祖父の書を手本としている。こうして考えると、祖父は私に与えた影響は大きいのかもしれない。

その祖父も19年前に他界した。私が21歳の時だったはず。大晦日になると、神主の装束を纏った祖父を決まって思い出す。間もなく年が暮れる。