2015年にオープンし、2024年1月には来場者数700万人を達成したニフレル。株式会社海遊館が運営する、独自のコンセプト「感性にふれる」をもつ生きているミュージアムだ。館長を務める小畑さんは、「生きものと同じ目線」にこだわり、生きものを「彼ら」と呼ぶ。小畑さんの彼らへの敬意がこの場所を作り上げている。
ヤンバルクイナの変なTシャツを着て、魚を追いかけ回す日々
幼少期、家の前にある川でフナやゲンゴロウを捕まえ、図鑑を参考に生態を調べて考えて飼うのが日課だった。
「お気に入りはイソギンチャクが表紙の魚図鑑。例えば、“ダンゴウオ”と言われたらそこのページをすぐに開けられるくらい読み込みました。それこそ、穴があくんじゃないかって思うほど」。
高校生になっても魚への興味は尽きず、東海大学の海洋学部へ。
「水族応用生態研究会に入部しました。学祭では、部員それぞれが捕まえてきた魚を展示して即席の水族館を作ったりしていましたね。今まで見てきた日本海側の魚と違って、太平洋側の魚たちはとってもきれいなんですよ」と目を細める。
同級生たちが遊びで街に繰り出す中、幼い頃から変わらず網とバケツを持って港へ向かう日々。
「一応、バブルの時代だったんですけど、街中で遊んだことはなかったですね。ヤンバルクイナの変なTシャツを着て、魚を捕っていましたわ」と笑う。
学生時代の小畑さん(左)。
隔たりを取り払って、同じ世界を共有したい
海遊館に入社後、初めての大きなリニューアルを任されると、生き物と人間の世界をさえぎらない、独自の世界観を表現した展示が評判を呼ぶ。
「分厚いアクリル越しの魚って、こちら側と世界が違うように感じません?例えば、水族館でアザラシを見るのと、自然の中で、地続きの先にアザラシを見るのとでは感じ方が全然違う。できるだけ自然に近い感覚に近づけました」。
エイやサメに触れることのできるエリアを作ったり、ペンギンを囲うアクリル板を低くして直接見えるようにしたり、「同じ空間を共有することにチャレンジした」という。
ニフレルの館長に任命されると、既存の水族館という概念をくつがえす、新たな挑戦が始まった。「子どもの頃に、小さな虫や雲の流れを見て感じたことは、大人になると忘れてしまう。自然を不思議に思ったりワクワクしたり、畏敬の念に打たれたり。みんなが子どもの頃に持っていた感性を、思い出せるような場所にしたかったんです」。
ジンベエザメ輸送の様子
“彼ら”が教えてくれることは多い
ニフレルでは、水槽は壁に埋め込まず、全て展示空間の中に置いた。「水槽をのぞいて、水や光の揺れや魚の影を一緒に感じてもらうと、海や川で見ているのにかなり近い感覚になります。自然の要素を抽出して、いいところを借りているような感じです」。
より自然に近い環境にし、水槽の中と外との接点を増やすことで、人と生きものとの距離を近づけたという。
「彼ら(生きもの)は、人間にないものをたくさん持っている。人も含めて多様な個性は、実はすごく魅力的なんですよね。個性がある、違いがあるからおもしろいんです。皆さんが思っている以上に、彼らから学べることはすごく多い。だから、実はニフレルの競合って“身近にある自然”なんです」と話す。
「鳥や魚、昆虫など自然に生きる彼らを観察する面白さを知れば、誰もニフレルに来なくなってしまうんではないか」という危機感を真剣なまなざしで語る小畑さん。
生き物の息遣いが聞こえてくる唯一無二のミュージアムを作り上げているのは、その生き物たちへの強烈な愛だ。ニフレルは今後も、「生きものと人、どちらも幸せになれるような場所」へ、小畑さんの生きものへの想いと共に、進み続ける。