地域情報紙「City Life」が発信する地域密着のニュースサイト
地域から選ぶ
ジャンルから選ぶ
PICK UP
TOP > 〈特集〉直木賞作家・今村翔吾さんの連載コラム「吾、翔ける」 > 吾、翔ける vol.38 – 好きな戦国武将 –
「今村さんの一番好きな戦国武将は誰ですか?」 作家になってから幾度となくされた質問である。私はいつもこれに対しては、「一人に絞るのは難しいで」と、返してしまう。嘘ではない。実際に難しい。
私は3歳の頃から大河ドラマを観始めて、11歳から歴史小説を読み始めた。挙句は専門書まで読み漁った。その中で好きになった武将を挙げればきりがない。
雑談ならまだしも、インタビュー取材の場合は、 「敢えて一人に絞るなら?」 「ランキング形式でも構いません」 と、インタビュアーは食い下がる。まあ、先方にとっては、それが仕事なのだから仕方がない。 敢えて……敢えて、好きな戦国武将を一人挙げるとするならば、私はやはり真田信之である。信濃国の領主真田家の一人だ。講談などで有名な真田幸村(信繁)の兄であり、徳川家の大軍を二度に亘って翻弄した真田昌幸の長男である。父や弟はとても華々しい活躍が伝わっているが、私は真田の家を守り抜いた信之のほうが好きである。私が初めて読んだ歴史小説が、池波正太郎の『真田太平記』だった影響はかなり大きいだろう。真田信之について語ろうとすれば、この紙面に与えられた量では足りない。ランキングという訳ではないが、他に数人挙げていこうと思う。 まずは石田三成、松永久秀あたりか。この両人に関しては、私は自身の小説に主人公として取り上げている。とはいえ、私は「好きな武将」だから小説を書こうとした訳ではない。好きであることと、主人公に据えることは全く別である。いざ書こうとなった時、かねてから好きなので特に史料に詳しいという利点はある。が、それが書く理由には当たらない。
たとえば、伊達政宗や立花宗茂なども好きだ。しかし、いずれも作中に脇役として描いたことはあるが、いまだに主人公とした小説は書いていないし、現段階ではその構想もない。 一方、戦国武将ではないが伊予の御家人である河野通有や、今秋に発売する小説の主人公である駒井重勝などは、特段好きだという訳ではなかった。書く理由、書く意味、書けるという確信があったからこそ、主人公になったのである。とはいえ、書き終えると愛着を感じるのも確かである。 では、私は何で書くことを決めているのか。これは一も二もなくテーマである。それ以外にはない。テーマを先に決めて、それを最も表現出来る時代、人物を選び出して、物語を紡いでいく手法を取っている。それがたまたま好きな武将のこともあれば、そうでない武将の場合もあるということ。私が据えるテーマは、戦争、差別、人権、家族といった大きなものであることが多い。そして、今後も変わらないだろう。 旅先、講演先などで、「〇〇を主人公にした小説を書いて下さい」と言われるのも、歴史小説家あるあるかもしれない。が、このようなわけで、人に言われて書くということは絶対にない。自分が「好きな武将」さえも、狙って主人公に出来ないのだから、この点に関してはご容赦いただきたいと思っている。