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地震追って90年 ― 高槻・京大阿武山観測所 ― 〈中〉

2020.11.13
観測所地下の展示室にあるドイツ製のウィーヘルト地震計。
1930年代から使われた。左は飯尾能久所長=高槻市奈佐原

 

京都大学防災研究所付属地震予知研究センターの阿武山観測所(高槻市奈佐原)は、1930年の設立以来、地下世界に目を光らせてきた。いまも日々観測データを京都府宇治市の防災研に送っているが、この観測所が中核となっている観測網がある。「満点」地震観測システムだ。

展示室には「満点」地震観測システムの機器セットも

「満点」は網の目のように地震計を張り巡らして地下の構造を明らかにする狙いで、2008年に開発された。地震計が多いほど観測の精度は上がる。観測所長の飯尾能久(よしひさ)・防災研教授=地震学=(62)らが、開発の中心を担った。
ほぼ10cm角の地震計(重さ約1.5kg)と記録装置、電源などからなる。地震計は同じタイプでは世界最小、最軽量だそうだ。1「万点」あれば「満点」に近い観測ができると、名前がつけられた。山奥でも容易に設置でき、1セット約70万円と従来のものよりずっと低コストだ。
地震計は岩盤に固定され、他の機器はケースに入れ設置する。半年に一度、現場に行きデータを回収する。観測所はシステム全体の基地として、機材の整備や調整にあたっている。

「満点」地震観測システムを設置した様子。左の白い機器が地震計=ニュージーランド南島、京大防災研提供

現在運用しているのは、近畿中北部、山陰、長野県西部、内陸地震の研究に適したニュージーランドで計二百数十基。より簡易な姉妹機の「0.1満点」地震観測システムと合わせると、一時は1,200~1,300基まで設置が進んだが、特定のプロジェクトが終わると維持にも費用はかかることから、目標の「万点」には届いていない。
「様々な成果を挙げてきたが、必要な研究費を獲得するには地味だったかもしれない」と飯尾所長は話す。もちろん、断層と地下水の関係を究明した研究など、注目された成果も多い。
地球表面がいくつかの岩盤からなり大陸移動が起きたとするプレートテクトニクス理論を高校の地学の授業で学んだことがきっかけで、地震研究を志したという飯尾所長。29人が犠牲になった1984年の長野県西部地震を機に、活断層などによる内陸地震の研究に取り組んできた。プレート境界での地震に比べ、内陸地震のメカニズムはまだわからないことが多い。
2023年春の退官まで2年半。飯尾所長は「『満点』のデータを活用し、内陸地震の『場所』の予測に何とか道筋をつけたい。『いつ』の予知は難しいとしても、目標の6割方までは来ていると思う」。研究の総仕上げへの意気込みを語った。

〈次号では近年の近畿・北摂の地震などを取り上げます。〉

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