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大阪大学発のベンチャー企業が
新型コロナの簡易検査キットの開発に成功

2020.12.05

数分で陽性者と判定する新型コロナの簡易検査キット。11月に完成したパッケージ。

大阪大学吹田キャンパスの同大産業科学研究所の一角にある大学発のベンチャー企業が、新型コロナウイルスの簡易な検査キットを開発し、11月から本格的な製造に乗り出した。標準的なPCR検査と違い、特別な機器や人員が不要で費用も1件1万円を下回る。当初は研究用だが医療機関用にも販売を広げていく構えだ。冬を迎え感染拡大が懸念されるコロナ問題では検査の拡充も懸案の一つだ。今回の新技術がその解決の一助となることが期待される。

この企業は「株式会社ビズジーン」。DNA研究が専門で大阪大学産業科学研究所の特任准教授だった開發邦宏社長(47)らが、2018年に設立した。遺伝子(英語でジーン)を可視化(同ビジュアライズ)する技術開発に取り組む。現在の陣容は14人で、これまでアルコールへの耐性を調べる遺伝子検査キットや、酵母の遺伝子研究を踏まえた北摂産米による日本酒づくりなどを手がけてきた。

今回のコロナ検査キットは、熱帯地域のウイルス性疾患・デング熱の簡易検査キットを開発してきた経験を生かせないかと、2月に計画を始めた。だが開発費用が問題だった。そこでインターネットで支援を募るクラウドファンディングを活用、目標金額は300万円だったが、4月中旬までに1,527人から2501万9,000円が集まった。開發社長は「この問題についての人々の不安やキットへの期待の高さを感じた」と言う。この支援で数年かかることも覚悟していた開発は加速、年内の製造開始につながった。

ビズジーンの手法は、コロナについてのPCR検査、抗原検査、抗体検査のうち、抗原検査にあたる。PCR、抗原検査は「今感染しているか」を調べ、抗体検査は「過去に感染していたか」を明らかにする。同社によると、特徴は「核酸クロマト法」という独自技術にあり、従来のPCRや抗原検査に比べ、病原体の遺伝子を簡単かつ正確に検出できる。通常検出には抗原(ウイルス)に結合する抗体が2種類必要だが、同社の技術は1種類で可視化できるという。

PCR検査は検査機器と熟練した技術者が必要だ。結果判明まで6時間程度かかり、検査数にも限界がある。一方、同社のものは、使い切りの長さ6.5cm、幅1.8cmのプラスチック製キットに唾液を事前処理した液を垂らし、15分観察して線が現れれば陽性と判断できる。PCRは一般的に3~5万円ほどかかるのに対し、医療用は定価6,000円(税抜)。特別な知識も不要でインフルエンザ検査のように小さなクリニックでも導入可能だ。研究用も1万円以下で提供する予定。

ただ、遺伝子を増幅するPCR検査に比べると「感度」が低く、感染初期の人からの検出は難しい。発熱などの症状のある人に有効な検査だ。陽性なら治療に移り、陰性ならインフルエンザなどの感染を確認し、問題がなければ様子をみるということになる。

当初の製造は唾液を使う研究用で月約3万個の生産から始める。研究用も唾液を使用。医療機関用は、唾液よりウイルス量が多いとされる鼻の奥の粘液を専用の綿棒で採取する仕様とする。開發社長は「この技術は世界で我々だけのものと自負している。医療用は来年3、4月には100万個単位の製造を目指したい」と話す。

2年前に会社を立ち上げた開發邦宏さん。神戸大学で遺伝子を学び博士号を取得。オックスフォード大学でウイルスの遺伝子の検出法を研究した。これまでデング熱の簡易検査キットなどを手掛けている。同社のアルコール耐性検査キットや日本酒はホームページ(https://www.visgene.com/)から注文できる。

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