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CULTUREコラムVOL.15 梅花から「令和」を込めて

2021.01.03

『万葉集』の「密」

2020年は、「ソーシャルディスタンス」や「三密」といった言葉を覚える一年でした。『万葉集』に「密」の用字を探してみると、巻四に収められた安倍虫麻呂(あべのむしまろ)の歌(六六五番)と大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)の歌(六六六~七番)の後に、二人のお母さんはとても仲が良かった、との注記が目にとまります。虫麻呂と郎女も自然に、「相語らふこと既に密(こま)かなり。」と「親密」であったことが、漢文で記されています。

歌の中に「密」字を探すと、天平五年(733)に派遣され、遣唐使船に乗った子どもを、母が、

(前略)
鹿子じもの 我(あ)が独り子の 草枕
旅にし行けば 竹玉(たかたま)を しじに貫(ぬ)き垂(た)れ
斎瓮(いはひへ)に 木綿(ゆふ)取り垂でて
斎(いは)ひつつ 我(さき)が思ふ我が子 ま幸くありこそ
(前略)
鹿児自物 吾独子之 草枕
客二師徃者 竹珠乎 密貫垂
斎戸尓 木綿取 四手而
忌日管 吾思吾子 真好去有欲得

と、見送る長歌の中に見つけることができます。「鹿が一頭の子を生むように、私の大切な独り子が、草を枕に旅へ出かけて行くので、竹玉を(糸に)いっぱい通して垂らし、斎瓮(いわいべ)に木綿(ゆう)を取り付け垂らし、、祈りながら、大切に思う我が子よ、どうか無事であっておくれ」と、忌み清めた甕に酒を盛り、神に祈る母の思いが詠まれています。神事に用いる竹玉(竹で作った玉)が、糸にスカスカでは困ります。「しじに(密に)」と書き表されています。もちろん「密」は、そのまま「しじ」にと読むことができません。漢字の意味に合わせて、日本語の「密に。すきまなくいっぱいに。」の意を表す古語が、訓みに当てられています。こうした訓み方を義訓(ぎくん)といいます。
結びつきの深いことを、良いこととして用いた「密」を、「三密」などと、避けるために用いねばならないのは切ないことでした。
2021年は、人と人の結びつきに新たな形を得て、一層豊かになることを願ってやみません。

◊   ◊   ◊   ◊   ◊

 

梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

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