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CULTUREコラムVOL.16 梅花から「令和」を込めて

2021.01.28

ひとり愛でる梅の花

「令和」が生み出された「梅花の歌三十二首 并せて序」の中には、筑前の守(ちくぜんのかみ)であった山上憶良(やまのうえのお くら)が、次のような歌を詠んでいます。

春されば まづ咲くやどの 梅の花
ひとり見つつや 春日暮らさむ
波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能
烏梅能波奈 比等利美都々夜
波流比久良佐武 筑前守山上大夫
(巻5・818番歌)

「春が来るとまず咲く家の梅の花を、ひとり見ながら春の一日を暮らすことか」と。大勢の中にいるはずなのに、どうしてひとりで見るような歌を披露したのか。「やっぱり皆で楽しむのが一番ですよね。」との意味を込めた? 孤独だった? あらかじめ家で作っておいた歌を披露した? そうなら、宴の主催者であった大伴旅人の趣向を見抜いていたことになります。しかし、前の人がどのような歌を詠んでも、お構いなしに披露するのは躊躇われますね。
実は「ひとり」との表現、積極的に詠まれるようになるのは、奈良時代に入ってからです。『万葉集』の早い時期の歌には、人々の心をひとつにする力がありました。個性が豊かに発揮されるようになると、世界観が多様化します。そのような中に「ひとり」との表現がトレンドを迎えます。憶良は「どのように展開されますか?」と誘っているようです。続く豊後の守(ぶんごのかみ)、大伴大夫(おおともだいぶ)は、「やど」の梅の花を受けて、

世の中は 恋繁しゑや かくしあらば
梅の花にも ならましものを
余能奈可波 古飛斯宜志恵夜
加久之阿良婆 烏梅能波奈尓母
奈良麻之勿能怨 豊後守大伴大夫
(巻5・819番歌)

「世の中は恋が激しく辛いものなのか、こんなことなら梅の花になれたらよかったのに」と詠んでいます。「お慕いする憶良様が、家の梅をひとりで愛でられるのなら、私はその花になれたらよかったのに」と、恋を演出しているように読めます。旅人が催した宴の主賓は「梅の花」。他にも素材を組み合わせたり。つぼみの梅を詠んだかと思えば、満開にしたり、散らせたり。趣向を凝らすところに、集う者たちの知的な遊び心を楽しむことができます。

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梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

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