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CULTUREコラムVOL.18 梅花から「令和」を込めて

2021.03.28

桜の花に添えられたメッセージ

花のプレゼントに、メッセージカードを添えることがあります。万葉の時代は、カードの代わりに歌を贈りました。藤原広嗣(ふじわらの ひろつぐ)という人は、娘子(おとめ)へ、桜の花と一緒に次のような歌を詠んで贈っています。

この花の一(ひと)よの内(うち)に百種(ももくさ)の
言(こと)そ隠(こも)れる凡(おほ)ろかにすな
此花乃 一与能内尓 百種乃
言曽隠有 於保呂可尓為莫
(巻8・1456番歌)

「この花の(咲いている)一枝には、想う言葉がたくさん込められている、(くれぐれも)いい加減に扱うことのないように」と。伝えるべき想いは、「百種の言」だけで片付けられ、詳しく語られていません。贈った花の扱い方にまで「すな」と注文をつけているところに、上から目線が感じられます。口数少なく強い調子の言葉遣いを、男らしいと勘違いしていたのでしょうか?

これに娘子は、
この花の一(ひと)よの内は百種の
言(こと)持(も)ちかねて折らえけらずや
此花乃 一与能裏波 百種乃
言持不勝而 所折家良受也
(巻8・1456番歌)

「この花の(咲いている)一枝は、(込められた)言葉を支えきれないで折れてしまったのではありませんか?」と。花はプレゼントのために準備されたのではなく、あなたの言葉の重みに耐えきれなくて折れただけではないのか?としっぺ返しています。せっかくの桜の花が、売り言葉に買い言葉で終わっては、ケンカの種にしかなっていません。
でもよく読むと、娘子の歌は「?」で終わっているところに目がとまります。これに広嗣が、どう応えるのかに真価が問われているようです。考えてみれば広嗣も、「桜の花のプレゼントです」と添えただけでは、「ありがとう」の返事だけで終わってしまいますから。お互いに、相手との距離を考えながら言葉を選び、贈答が続くように詠まないと、コミュニケーションになりません。ふたりの「サクラサク」日は、まだしばらく先のようです。

◊   ◊   ◊   ◊   ◊

 

梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

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