CULTUREコラムVOL.21 梅花から「令和」を込めて
2021.07.05
桃の実エピソード
「桃の実」に連想される昔話を尋ねたら、多くの方は「桃太郎」をあげられるのではないでしょうか。さらに古く、712 年に成立した『古事記』には、神話の中に、イザナギの神が妻のイザナミの神を、黄泉(よみ)の国へ迎えに行った話を見つけることができます。
イザナギの神がイザナミの神に、二人で生んだ国がまだできあがっていないので、帰ってきて欲しいと頼みます(生き返ることを「黄泉がえる」といいますね)。イザナミの神は、この国で食事をしてしまったので、もう帰ることができないと答えます(「同じ釜の飯を食う」なんて諺が思い出されます)。
しかし、せっかくここまで迎えに来てくださいましたから、私も帰りたいと思います。他の神々と相談してくるので、戻るまで、決して私を見ないでくださいと頼みました。イザナギの神は待ちましたが、いつまでたっても声がかかりません。とうとう我慢ができなくなってしまいます。
火を灯して戸を開けてみると、見るなと言われていたこと。蛆のコロコロたかった、イザナミの神の姿を見てしまうことになります。思わず逃げ出してしまったので、イザナミの神は「恥をかかせた」と怒り、追っ手をかけます。イザナギの神は逃げながら、髪飾りを外して投げると山ブドウの実がなりました。櫛の歯を折って投げるとタケノコが生えました。追っ手がこれらを食べている間に逃げます。
最後は剣を後ろ手に振りまわしながら、黄泉比良坂(よもつひらさか)というところにたどり着きます。ここに桃の木が生えていました。実を投げつけると、追っ手は退散します。そこでイザナギの神は桃の実に、「おまえは私を助けたように、この国に住む人々が苦しんで困っている時に助けよ」と言って、オオカムズミの命(みこと)と名付けられました。
桃の木は、厄除けに利用されていたことがわかります。その実の効果は、物語のとおりです。桃の実には不老不死等、薬として利用された話もあります。店頭で見つけたらこの記事を思い出してください。イザナギの神とイザナミの神に会えるところは、吹田市の伊射奈岐神社をご紹介したことがあります。
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梅花女子大学教授 市瀬 雅之
現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数
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