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全ての子どもに学ぶ機会を 無料開催で6年目「高槻つばめ学習会」

2021.11.13

高槻市で開催している無料塾「高槻つばめ学習会」がスタートして6年たった。同会は代表の茶山敬子さんが「すべての子どもたちに教育の機会を提供したい」と、家庭の事情で塾などに通えない子どもたちのためにつくった場所だ。手探りで開始した学習会は、先生たちの尽力によって新たな展開を見せている。

茶山さんと大西さん

代表の茶山さん(右)と副代表の大西さん。大西さんは定年退職後に同会の存在を知り参加。「ここでは、いまの子どもを取り巻く環境を知ることができ、勉強になります」と話す

 

東京の無料塾を参考に
2016年スタート

 

同会は週1回、市内の公共施設で開催している。家庭の事情により有料の塾に通えない市内の中学生が対象で、今は13人が通う(現在は募集停止)。基本は英語と数学の2科目、各90分をマンツーマン、もしくは先生1人に対して子ども2人と少人数制で教える。

社会福祉士でもある茶山さんは、各家庭を訪問している中で、以前から子どもたちの教育格差が気になっていた。家庭の事情で塾に通えない子でも学べる場を作りたいと考え、たどり着いたのが東京の「八王子つばめ塾」。全国に先駆けて無料学習塾を実施し、メディアにも多数取り上げられている団体だ。茶山さんは早速、コンタクトをとって現地へ赴き運営方法を学ぶと、2016年に高槻で開始した。

「最初は”無料で運営できるのだろうか”と不安でした。最初は私1人、生徒1人でやっていましたが、口コミで少しずつ広まり、意外にも先生の希望が多く生徒より先に集まりました」と茶山さん。半年ほどすると保護者にも周知されるようになり生徒も増えてきた。

 

先生たちの知恵で生まれた
独自の仕組みや指導方法

勉強中1

先生の中には県外から通う人も

先生は全員がボランティアで年齢は20代~70代。学生、サラリーマンに公務員、元教員、現役から引退した人まで、動機についても「将来教員になるため」「子どもたちと関わりたい」「教育問題に興味がある」などさまざまだ。近隣だけでなく県外から通ったりオンライン授業のみの人も含め、総勢40人が携わる。

「無理のない時間で、無理なくできることを」が合言葉だが、積極的に取り組む先生も多い。授業の引継ぎのためオンラインでやりとりする「電子連絡帳」をつくったり、小学校時代の苦手科目を見つけるためのオリジナルテストを作ったりと、それぞれのアイデアや技術、知見を活かした仕組みづくりができている。

勉強中2

中学2年生のAくんは「ここで教えてもらって数学が前より楽しくなった」と話した

最近だと「考える力を身につけさせたい」と考えた先生が、アクティブラーニングを企画。通常授業とは別に、理科や社会の授業も開始した。理科では実験、社会では農作物の産地を記した地図など、先生自らオリジナル教材を製作。授業では手を動かしたりディスカッションするなど「学び合い・教え合い」の場を設ける。

教室風景

現在は感染症対策のため、2部屋に分けているほか、オンライン授業も実施している

先生たちの間では、昨今の教育事情について関心が高い。「最近は高校入試でも、暗記した答えを書くだけでなく、“考えさせる”問題が増えています。今はインターネットで調べれば何でも出てくるので、考える力やコミュニケーション能力が求められています。読解力の低下なども叫ばれていますし、AIの進歩と学力への影響についても話題に上がりますね」と茶山さん。教育問題をテーマにした書籍のやり取りや意見交換会といった研究も継続的に行い、指導に取り入れている。

 

学ぶ楽しさや
自分の強みを知ってほしい

マレー先生

元英語教師のマレーさんはここで教えるようになって約2年。「規模が小さくてリラックできる環境です。同じ生徒を長く教えるので、信頼関係が築けるのもいいですね」と話す

「”分かることはおもしろい”ことを知ってほしいので、うちでは入試対策に限定していません。受験が終わった後も、将来資格を取ったり学習は続きますから」という。そんな指導の中、「家で勉強できなかった子が、ノートにびっしり英単語を書いたのを見せてくれた時は感動しました」とうれしい変化もあった。

また同会では、子どもにあった道を見つけてほしいとも考えており、先生のアドバイスをきっかけに教員を目指すようになった子もいた。「うちでは外国にルーツを持つ子もいます。日本語にハンデがあったけれど英語は堪能、という子に英検を勧めたら、バイリンガル教育に興味を持つようになりました。強みを活かすという考え方も大事にしたい」と子どもの未来を後押しした。

 

学校でも塾でもない
子どもの居場所を

ラジオドラマ取材

相愛高校放送部が「心暖まる無料塾」というテーマで同会を紹介。今年の全国高等学校総合文化祭で審査員特別賞を受賞した。写真は取材で訪れた高校生、顧問の先生との記念撮影

 

活動をSNSなどで発信するうちに、横の繋がりもできた。コロナの影響で休校中に地元飲食店のカレーを配布して昼食支援をしたほか、府内高校の生徒の目に留まり、放送部がつくるラジオドラマのモデルとして取材を受けた。今年10月末には、子どもの第3の場所を考えるためのシンポジウムにパネリストとして茶山さんが登壇した。

シンポジウム風景

10月30日に開かれた「地域から広がる第3の居場所」シンポジウム。茶山さん(右端)はパネリストとして参加した

同会について茶山さんはこう話す。

「無料塾はかつてより認知されていますが、まだ定着していません。でも例えば、小学生の登校時に、通学路で旗を振っているボランティアは今や当たり前ですよね。つばめ学習会も、近所のお兄さんお姉さん、おじさんおばさんが気軽に教えるような存在になるのが理想です。ただ単に勉強を教えるのではなく、子どもたちが気軽にコミュニケーションを取れる場所が増えればいいなと思います」

子ども食堂カレー

昼食支援では地元飲食店のカレーを配布

 

ボランティアは随時募集中。

現在、生徒の募集は行っていない(ボランティアの目途がつき次第再開)。

問い合わせは専用フォーム(別サイトのリンクが開きます)

 

記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。