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CULTUREコラムVOL.26 梅花から「令和」を込めて

2021.12.01

師走の景色

『万葉集』に師走を探すと、紀少鹿女郎(きのおじかのいらつめ)が次の一首を詠んでいます。

十二月(しはす)には沫雪(あわゆき)降ると知らねかも
梅の花咲く含(ふふ)めらずして
十二月尓者 沫雪零跡 不知可毛
梅花開 含不有而 (巻8・1648番歌)

「十二月には淡雪が降ると知らないのでしょうか?梅の花が咲いてしまいました。つぼみのままいないで」と。まだ雪が降る季節なのにと驚きながらも、ぽかぽかとした陽気に誘われたのでしょうか、咲いている梅の花を見つけています。12月のコラムとしては、梅の開花の話題はもう少し後がうれしいなぁ、と歯切れの悪さを感じています。

雪は、二十四節気の冬が「立冬・小雪・大雪・冬至・小寒・大寒」と区切られていることに目を向けることができます。「小雪」と「大雪」を見つけられます。今年の「大雪」は12月7日、冬至は12月22日です。その間に大雪が降るのか?と言われたら、太陰暦を太陽暦にあてていますので、天気予報でもよく「暦の上では○○です」というのが決まり文句のとおりです。

日本人はふたつの暦を併用しているので、こうした現象に時々であいます。ひな祭り、端午の節句、七夕の行事などが、地域によって一ヶ月ずれているのがわかりやすい例です。新旧どちらの暦も許容して器用に生きていますね。手帳を買われる時期なので、手に取ったものの中に二十四節気がついているのかを探してみるのも楽しいと思います。

紀少鹿女郎の歌は、同じ巻にもう一首残されています。

ひさかたの月夜(つくよ)を清み梅の花
心開(こころひら)けて我(あ)が思へる君
久方乃 月夜乎清美 梅花
心開而 吾念有公 (巻8・1661番歌)

「遠い彼方に月の(照る)夜は清らかですね。梅の花の(ように)心を開いて私が思っているあなたは(どのように思われますか)」と。「梅の花」は目の前にあった方がわかりやすいのですが、譬喩として用いられています。月というと中秋が知られていますが、冬の空気は冷たく澄んでいるので、月明かりが清らかに感じられます。お出かけの帰り、夜空が明るいと感じられたら見上げてください。冬の美しい月を楽しむことができます。

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梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

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