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<SDGs>CO2削減と地域振興で一石二鳥「立命館大学カーボンマイナスプロジェクト」

2022.03.04
柴田 晃教授 / 立命館大学OIC総合研究機構客員研究教員(教授)、
一般社団法人クルベジ協会代表理事、日本炭化学会会長。
炭やバイオマスを用いた農業・林業への利用について研究している。

 

温室効果ガスの排出量を抑えるために、国や企業で取り組みが進む中、立命館大学ではバイオ炭に注目した「カーボンマイナスプロジェクト」を実施している。農家や林業でのバイオ炭利用やCO2のクレジット化(J-クレジット制度※1)によって、カーボンマイナス実現と同時に地域振興をめざす。プロジェクトを牽引する柴田晃教授に話を聞いた。

※1J-クレジット制度とは温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度。同制度により創出されたクレジットは、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用できる。

カーボンマイナスとは

「カーボンマイナス」とは地表上で循環する炭素総量を減少に導き、CO2を削減すること。「世界各国・各機関で色んな方法が研究されていますが、多くは化石燃料の使用量の減少を目指して、そのエネルギーをバイオマスエネルギー・水力・風力等で代替えする『カーボンニュートラル』な削減方法です。私たちが目指しているのは、土壌中にバイオ炭を埋める炭素隔離で、地表上から炭素総量とCO2を減らす『カーボンマイナス』です」と柴田さん。

CO2削減に地域振興も注目の「バイオ炭」

バイオ炭とは、間伐材、放置竹林や選定枝、米のもみ殻といった未利用「バイオマス」原料を一定の条件下で炭にしたものを指す。通常、枯れた樹木などを放置しておくと、シロアリや微生物が分解したり燃やされたりするため、CO2が再放出されてしまう。

そこで柴田さんらは炭の特性に注目した。樹木を炭にする過程で樹木の持つ炭素の約半分はCO2が発生するが、不完全燃焼(炭化)をした樹木では炭素が固形化して残る。その固形物が炭であり、燃やさない限り、半永久的に空気中に戻ることがない。柴田さんによるとバイオマスの通常の分解によって発生するCO2排出量は、バイオ炭を作り、地中に埋めることで40~50%ほど抑えられるので、空気中に排出されるCO2が削減可能になるという。

ブランド野菜とJ-クレジットで地域循環

プロジェクトではバイオ炭を農業や林業で利用するほか、国の制度「J-クレジット」を活用することで地域振興の役割も視野に入れる。まずはCO2排出量削減の効果があるバイオ炭を用いて育った野菜を環境保全農作物「クルベジ®︎」としてブランド化し「食べるだけでエコ®︎、環境保全に貢献できる」として、消費者への関心を高める。

さらにはCO2を含む温室効果ガスの排出削減量などを“クレジット”として認証し、経済活動での活用を可能にしたJ-クレジットを導入することで、企業や自治体が環境に関する目標達成や戦略のために活用できるような仕組みを整える。

バイオ炭を通した、Jクレジット・クルベジなど、農村と都会との関連性のイメージ図

「炭は土壌改善の効果があるとして、農業で取り入れているところもありますが、費用がかさむため気軽に使えないのが難点でした。野菜をブランド化することで農家の収益に貢献できれば、取り入れてみようかと考える人も増えると思います」と柴田さん。

今後の展開

柴田さんが代表理事を務める一般社団法人「日本クルベジ協会」が提出したバイオ炭を使ったJ-クレジット申請が、今年1月に初めて登録された。令和3年度は約100件の農家がクルベジに参画しており、約250トン換算のJ-クレジット創出を見込んでいる。順調にいけば今年6月に認可が下りるといい、購入に興味を示す国内大手企業も多数いるという。

今後はクルベジの展開やシステムの運用と同時に、バイオ炭の有効性を定量評価するため、原料調達・輸送から、製造、輸送、散布・埋設といった一連の各ステップで排出されるCO2排出総量を数値化したLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)も検証していく。地域で出た未利用バイオマスを用いたバイオ炭による地元循環型の仕組みは始まったばかり。今後の発展に注目が集まる。


立命館大学カーボンマイナスプロジェクト

農林水産省の農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究のひとつである、脱炭素・環境対応プロジェクト「農林水産分野における炭素吸収源対策技術の開発」のアウトリーチ活動の一環。立命館大学は「TEAM EXPO 2025」 プログラムに参加。

 

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