VRのゲームでリハビリを。豊中市に世界初「成果報酬型」リハビリ施設も
2022.03.06
同社リハビリセンター(豊中市)でのトレーニング風景。コントローラーをもち、利用者の腕の長さや動かせる範囲を測定し
た後、対象物があらわれる位置や、落下スピードを調整する
豊中市の医療ベンチャー「mediVR(メディブイアール)」が、VR(バーチャルリアリティ)技術を使ったリハビリ用医療機器「カグラ」を開発した。昨年11月には「成果報酬型」リハビリ施設もオープン。病気やケガで失われた機能を「回復させる」ことにこだわり、全国の病院や施設への導入を進めている。
VR技術使ったリハビリ機器「カグラ」
椅子に座ってゴーグルを装着すると、奥行きのある白い空間が広がった。
「右上」「左斜め上」の声とともに、赤や青のボールが次々と落ちてくる。
拾おうと思わず手を伸ばすとボールに手が触れた瞬間、手に握ったコントローラーがブルブルと震え「ピローン」と音が。同時に「あっぱれ!」の文字が目の前にあらわれた。
ゲームをしているようだが、リハビリ機器の体験中だ。
使っているのは、大阪大との産学連携ベンチャー「mediVR」(豊中市)が開発した「カグラ」。VRの技術を使い、仮想空間でゲームをすることで身体機能や認知機能の回復を目指す。
VR技術を使ったリハビリ機器「カグラ」
mediVRは循環器内科医の原正彦さんが、心血管疾患の治療を専門とする中で、脳梗塞を発症し体に麻痺が残った患者を治したいと、2016年に創業。
2019年から医療機器としてカグラの販売を開始した。現在、大阪で4箇所、全国で30の病院やリハビリ施設などに導入されている。
脳の学習モデルの再構築を促す
これまでもVR技術を使ったリハビリは行われていたが、効果は限定的だったという。
そこで原さんは、運動や認知に関する脳の学習モデルに着目。脳科学の知見から、それらの構築を促す要素を取り入れてカグラを開発した。
ボールなど対象物の位置を患者自身が明確に意識し、それにうまく手が触れたときに視覚、聴覚、触覚を刺激することで、「体をどのように動かせばよいのか」を脳が効率的に再学習する仕組みだ。
これまで脳梗塞をはじめ、脳性まひやパーキンソン病、高次脳機能障害など幅広い症状に効果があったという。
カグラの特徴
カグラを使ったリハビリは患者の症状にかかわらず座位で行う。
歩行機能の訓練であっても、座りながらコントローラーを握った手を交互に伸ばすことで、歩くときに必要な姿勢バランスのとり方や、重心移動のコツをつかむことができるという。転倒リスクが低く、立つことが難しい患者も安全にトレーニングできる。
ゲームではボールなど対象物の大きさや、落下するスピード、位置などが細かく調整できる。そのため患者の状態にあった難易度のゲームを出題することができ、効率よくトレーニングができるという。
トレーニングの様子
40代会社員の男性Tさんのリハビリが行われていた。Tさんは5年ほど前に、脳出血を発症して右半身に麻痺が残り、昨年12月から週に2~3回トレーニングを受けている。
トレーニングするTさんと理学療法士の岡田さん
この日は、空間にあらわれる印籠にタッチする「水戸黄門ゲーム」などを40分ほどプレイして少し汗ばんだ様子。
Tさんは麻痺のあった右腕を徐々に伸ばすことができるようになったそうで、
「どんどん次のステップに向かって改善している感じ。右手で物を取る、取ったら離す、ができればもっと自由に動けると思う」と期待する。
作業療法士として10年以上の経験をもつ村川唯さんは、「カグラを使うようになって、患者さんの状態に合わせた課題を出すことの大切さを実感した」という。
水戸黄門ゲームの画面。赤い円の中に表示されている印籠にタッチする。
「成果報酬型」リハビリ施設を開設
営業も担当する理学療法士の岡田拓己さんによると、カグラの効果を最大限に引き出すためには、
作業療法士や理学療法士が、利用者の動きから現在の身体機能、認知機能を把握し、ゲームの難易度を細かく調整することが求められる。
そのためには3ヵ月から半年ほどトレーニングが必要なため、病院や施設への導入は時間をかけて進める必要があるという。
一方、治療効果を患者により実感してもらえるよう昨年11月、自社で運営するリハビリセンターを豊中市に開設した。
同社代表、原さんによると世界初の「成果報酬型」リハビリ施設で、
例えば、車いす利用者が「椅子から一人で立ち上がれるようになる」「歩行器で歩けるようになる」といった目標を達成したときに料金が発生する。
岡田さんは「動きがよくなってきたときの利用者さんのわくわくした表情がうれしい」と言い、
「病院や施設で導入してもらい、全国の困っている患者さんに気軽に使ってもらえるよう進めていきたい」と話している。
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