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CULTUREコラムVOL.31 梅花から「令和」を込めて

2022.05.10

立夏

日本の四季は、二十四節気が定着すると歌に詠まれはじめます。五月五日は、「こどもの日」と答える方が多いと思いますが、「立夏」でもあり……。田植えの季節に入ります。万葉の時代では、藤原夫人(ふじわらのぶにん)が、次の歌を詠んでいるのが早い例になります。

 ほととぎすいたくな鳴きそ汝(な)が声を

 五月(さつき)の玉にあへ貫(ぬ)くまでに

 霍公鳥 痛莫鳴 汝音乎

 五月玉尓 相貫左右二

(巻8・1465番歌)

「ほととぎすよ、そんはに激しく鳴くな。お前の声を、五月(五日)の薬玉に貫き通すことができる日まで」と。ほととぎすは、夏を迎える頃に「テッペンカケタカ」と鳴きはじめます。ただ、歌の詠まれた年は陽気が良かったのでしょうか、節日を迎える前だというのに、ほととぎすが勢いよく鳴きすぎて、立夏までに鳴き終わってしまいはしないかと、作者は心配しているようです。「五月の玉」とは、五日の節句に飾る薬玉のことです。命が長くあることを祈って、香薬を錦の袋に入れ、菖蒲・蓬・橘の実などを玉の代わりに付けて五色の糸を垂らしたものでした。ほととぎすの鳴き声が、ちょうど薬玉を貫くように聞こえてくるところに、初夏の季節が表現されています。
ほととぎすがなかなか鳴かない年もあるようで、「ほととぎすよ、お前の初音は私によこしなさい、五月の薬玉に交えて貫きましょう」

 ほととぎす汝が初声(はつこえ)は我(われ)にこせ

 五月の玉に交へて貫かむ 

 霍公鳥 汝始音者 於吾欲得

 五月之珠尓 交而将貫

(巻10・1939番歌)

と、楽しみに待つ歌もあります。

フェチなのは、『万葉集』を編んだといわれる大伴家持。

 あしひきの山も近きをほととぎす

 月立つまでになにか来(き)鳴(な)かぬ  

 多安思比奇能 夜麻毛知可吉乎

 保登等藝須 都奇多都麻泥尓

 奈仁加吉奈可奴

(17・三九八三)

「(あしひきの)山も近いというのに、ほととぎすが月も変わるのにどうして来て鳴かないのだ」と、前月から詠み、「ほととぎすが立夏の日に鳴くのは当前だ」とまで注記しています。
新緑の美しい季節です。初夏を楽しみたいですね。

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梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

CULTUREコラム「梅花から「令和」を込めて」は今回をもって最終回となります。
市瀬先生のご活躍は、http://kmanyo.sakura.ne.jp/(万葉考房)でご覧いただけます。

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