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「鵜殿のヨシ」を新たな特産品に地域で守り育てる産業を目指して

2023.03.06
鵜殿のヨシ原は日本の原風景と語る鳥居さん。今はボランティアでヨシを刈る。
写真は今年2月のヨシ刈り時の様子。

 

高槻市、摂津峡の山水館で、藤井聡太竜王と羽生善治九段が対局した今年1月。夢の対決の前夜に開かれた記者会見で、両者にある記念品が手渡された。その記念品とは、高槻の「鵜殿(うどの)ヨシ原」で採れたヨシを使った布製品だ。地域に根ざす新たな特産品を育てるため、「Udono fabric」のブランドを立ち上げた鳥居博昭さんに話を聞いた。

日本の歴史や文化に根付く「鵜殿ヨシ原」

イネ科の多年草であるヨシ(またはアシ)は、長いもので5メートルもの高さに育つ。高槻市東部の淀川河川敷に広がる「鵜殿ヨシ原」で採れる陸生のヨシは、琵琶湖などで採れる水生のヨシと比べて太さや厚みがあるのが特徴で、雅楽の楽器に欠かせない素材として重用されている。

そんな鵜殿ヨシ原では、ヨシの生育環境の保全や河川の生態系を維持するために行う「ヨシ原焼き」が毎年の恒例行事となっていたが、コロナ禍の影響で数年間中止が続いた。その結果、河川敷には雑草が繁殖し、2021年ごろには鵜殿のヨシは一度全滅したといわれた。この事態を受けて、雅楽師の東儀秀樹さんらが所属する団体が「ヨシ原焼き」の再開や「つる草抜き」への参加を呼びかけるなど、さまざまな団体や企業が再生に向けて動き出した。そして、各所の地道な活動が実り、今年は立派に伸びたヨシが淀川の河川敷を埋め尽くした。

繊維製品として新たな活用を

近年では、ヨシの新たな活用法も模索されている。その一つが繊維素材としての活用だ。枚方市のデザイン事務所が、鵜殿のヨシから取り出した繊維と綿を合わせた混紡糸を開発し、さまざまな布製品への活用を2021年から開始。高槻市で3代にわたって寝具店を営む鳥居さんもこの取り組みに賛同し、「Udono fabric」というヨシ製品の新ブランドを立ち上げた。

「長年の『眠り』に関するこだわりと自然環境への想いを形にしようと、ブランドを立ち上げました。たった一年で5メートルにまで育ち、川の生態系を育むヨシを使った製品は、ベビー向けのギフトにぴったりだと考えました」と、新たな素材との出会いを振り返る鳥居さん。そうして生まれたのが、ヨシ糸を織り込んだ「よしいくケット」だ。何層にも折り重ねたガーゼ生地は、麻のようにさらりとドライな感触でありながら、使えば使うほど柔らかさが出てくるそう。立ち枯れしたヨシの色味が混じった生地は目にも肌にも優しく、穏やかで心地よい眠りへと誘ってくれる。

地域の産業に育て、ヨシ原を守る

そんな思いで新たなブランドを立ち上げた鳥居さんだが、長年高槻に住んでいる人でも鵜殿のヨシの歴史や文化的な価値を知らない人が大勢いることを実感したという。そこで始めたのが「ヨシふきん」の販売だ。蚊帳織りで速乾性があり、ヨシが本来持つ抗菌・消臭効果もある逸品は、生活のいろいろなシーンで使えるのはもちろん、ちょっとした贈り物にも適している。「まずは暮らしに身近な製品を通じてヨシのことを知ってもらい、文化や歴史、自然環境への関心を高めてもらうきっかけに」。そんな考えを持って、鳥居さんは鵜殿ヨシ原を守り育てる活動を今後も続けていく。

眠りショップわたや館(株式会社 鳥居、高槻市紺屋町6-18)の代表取締役 鳥居博昭さん。

ヨシから繊維を取り出した混紡糸で布製品を生みだした。

抗菌効果や消臭効果があるヨシ繊維とオーガニックコットンの混紡糸「ヨシ糸」を使用。蚊帳生地を5枚重ねて製作した「ヨシふきん」。

ヨシのようにすくすくと育ってほしい、眠りの大切さを伝えたいという思いから製品化した「よしいくケット」。

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