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【阪神神戸版】CULTUREコラムVOL.3 梅花から「令和」を込めて 「さあ皆さん、手土産の準備です」

2019.11.03

万葉の時代に、奈良から出発して西宮を経由する旅をした高市黒人(たけちのくろひと)は、現在の神戸市長田区真野町のあたりまで出張して帰ったようです。

「さあ皆さん、奈良へ早く。白菅の(生えている)真野の榛の木林の(枝を)手折って行きましょう」と詠んでいます。真野には立派な榛の木が群生していたようで、その枝を手折って土産にすることまでが提案されています。今回の旅には、「いざ」と呼びかけた仲間の中に黒人の妻が同行していたようで、

と、「白菅の(生えている)真野の榛の木林を、行き来するたびに、あなたは見ているのでしょう(立派な)真野の榛の木林を。(でも私ははじめてなんです)」と詠んでいます。あれっ?っと思うのは、「仕事が終わった早く帰ろう」という夫の言葉に、妻が「そうね」と応えていないところです。観光旅行なら「もっとゆっくりして行きたいわぁ」となるかもしれませんが、仕事での出張ですし行程も決められています。実は、当時の旅の歌(羈旅歌)には二つの大きな役割があり、一つは旅先から残してきた故郷や家(家族)を思慕すること。もう一つは、訪れたち地を褒めることが求められていました。今回は夫婦で一首ずつ詠んでいます。もしかしたら、黒人がひとりで二役を演じ、旅の余興として女歌(おんなうた)を披露して、土産歌としての趣向を凝らしているのかもしれませんね。

梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

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