-豊中- 豊中市が「卒煙」プロジェクトの結果を発表
2023.06.02
官民連携の新手法で取り組んだ成果は?
豊中市は、2019年6月から2022年3月にかけて実施した「とよなか卒煙プロジェクト」の成果をまとめた報告書を2023年3月に公開した。総勢792人の喫煙者が参加し、国内初の仕組みを活用した禁煙プロジェクトは、どのような成果を得られたのだろうか?
将来の医療費・介護費削減を目指す
「とよなか卒煙プロジェクト」を実施した背景には、超高齢化社会で起こる医療費の増大への懸念がある。豊中市の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は2020年の時点で25.7%にもおよび、実に4人に1人が高齢者という現状だ。今後の社会保障制度を維持していくために、市民の健康維持は非常に重要なテーマになる。
プロジェクトの狙いは、喫煙者の数を減らすことで、喫煙が原因と考えられる疾病の削減や、受動喫煙による健康被害の防止を行い、将来的な医療費・介護費の削減へとつなげることだ。豊中市が2016年に実施した市民アンケートでは、たばこを「吸っている」と答えた成人の割合は11.2%、そのうち「やめたい」か「やめてもよい」という人の割合は64.1%だった。市はこの結果を受けて「やめたいという思いがあっても禁煙行動を起こすのは困難」だと指摘。実際に禁煙を開始して、その後も継続できる取り組みとして、今回のプロジェクト実施へと至った。
今回のプロジェクトでは、豊中市から委託を受けた民間企業の株式会社CureAppが開発したスマートフォンアプリ「ascure(アスキュア)卒煙」を参加者に提供した。同アプリ上で禁煙指導を受けられるほか、保健師・薬剤師などの医療資格保有者によるオンライン面談や、ニコチンパッチなどの禁煙補助薬の配送といったサービスを受けられ、実際に通院することなくオンラインで禁煙プログラムを受講できる点が特徴だ。
また、プロジェクトの実施にあたり、民間資金を活用した成果連動型の「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)※」の仕組みを活用した。豊中市によると、「禁煙をテーマとした SIB」の実施は、国内初の取り組みだという。
2億5千万円の医療費削減につながる成果
プロジェクトは、2019年6月から2022年3月にかけて実施。豊中市内に在住もしくは在勤している20歳以上を対象に希望者を募り、目標である900人に対して792人(88.0%)の参加者が集まった。そして、初回の面談から1年間禁煙を継続できた人数は337人(目標450人の74.9%)に達した。豊中市の試算によると、この結果によって約2億5千万円の医療費削減につながったという。
豊中市はプロジェクトの成果をまとめた報告書において、SIBの仕組みを活用したことで「複数の企業が関わることにより、(中略)自治体の力だけでは成しえない禁煙成功者数となった」と評価しつつ、今回のプロジェクトは「市民の疾病予防、ひいては平均寿命・健康寿命の延伸につながり、市の政策指標の一つである『健康寿命と平均寿命の差の縮小』にも貢献した取り組みであった」と締めくくった。
出典=豊中市
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※ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)とは
社会課題を解決するために官民連携で実施する事業手法の一つ。事業の評価結果に連動した「成果連動型」で報酬を支払う仕組みに加え、SIBでは事業を行うための資金調達も民間の金融機関などから行う。
通常の成果連動型の事業では、事業の成果を測定して報酬を支払うまでに数年かかってしまう場合があるもののも、行政からの委託を請け負う企業やNPO法人は、資金的な余裕が十分でないケースも多い。そこで、事業を行う資金を民間から調達し、行政と事前に合意した成果目標を達成できれば、行政が資金提供者へ成果に応じた報酬を支払うのがSIBの仕組みだ。
SIBに適している分野として、予防医療や教育分野、雇用支援や依存症対策などが挙げられる。
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