芦屋在住 三上康雄監督の新作 「武蔵ーむさしー」5/25(土)より公開中
2019.06.13
芦屋在住の三上康雄監督(61歳)は、学生時代に自主映画を製作し、その後30年間、家業を継ぎ、社長として経営した企業をM&Aで株式譲渡し、個人事務所を立ち上げ、映画製作を始めたという経歴を持つ。2013年の監督第一作「蠢動-しゅんどう-」は国内のみならず、世界12カ国公開され高評価を受けた。新作「武蔵ーむさしー」について話を伺った。
三上監督の取材時に撮影。居合刀も史実に基づき再現した。
画面の端から端まで自分の作品
監督にとって、映画界でメジャーな組織での製作環境に頼らず、個人事務所で映画を製作するということの意味を聞いた。
「小説は作家が書き、絵は画家が描く、1人で完結できる。でも映画は小説、絵、音楽、演劇、美術、すべての要素を統合しな
ければならない、さまざまな力を借りなければならず、1人ではできない。それでも映画は「作品」という言葉で語られるように、作者である監督の気持ち、何もかもが入っていなければならないと思っている。すべて分業作業にしてしまうと全部希薄になってしまう。10人でやることを1人で10個やれば自分の色になるだろうと思ってやっている。画面の端から端まで、自分の作品でなければ嫌だから個人でやっている」。大きな組織の中ですべてが事務的に分業化され、映画が後世まで残る「作品」ではなくテレビ的な消費される「商品」になってしまうことを危惧する監督にとって、作家性を追求するには、しがらみのない個人事務所での製作が強みになるという。
佐々木小次郎を演じる松平健さん ©2019三上康雄事務所
武蔵役の細田善彦さん ©2019三上康雄事務所
1コマの大根、小道具も納得いくものに
脚本、監督、編集、プロデューサーなど多くを役割を兼務するだけではなく、撮影用の刀剣もデザインし、小道具に至るまでまで一切、手を抜いていない。
細部まで妥協しない理由はなんだろうか?「当時の大根と同じ大きさのものを種から育ててもらった。すべてのものにこだわりをもっている。どれだけこだわってもそれを殊更に強調はしない。手間暇をかけたことの積み重ねが観客に伝わり、凄い
作品となる」。
細部にまで本物をつかうことは、「わかる人には分かる」程度なのかもしれない。しかしそれが積み重なると、圧倒的な説
得力を持つのだろう。
役者も「作品」づくりに真剣勝負
監督の作品作りへのこだわりは出演者にも響くようだ。キャスティング会社を挟んでいないことで、直接関係性を築くことができたという。
「細田善彦君は、武蔵の役作りのために撮影前に三か月スケジュールを空け、殺陣を学び、ジムに通い、10㎏の筋肉をつけた」「松平健さんは佐々木小次郎として立つため、命綱などつけず、危険な高所での撮影に挑んだ」「清水紘治さんは極寒の撮影時、自分の出番でない時も監督がいるからと暖を取りにいかず傍にいてくれた」「目黒祐樹さんは3分半ノーカットの長回しシーンのため自主練習し、40回以上道場に通った」など、次々と出演者のエピソードがあがる。役者魂をひきだす撮影現場だったようだ。
「関西自主映画界の雄」と呼ばれ、16mm作品を含む自主映画を5本監督した若き時代の情熱を、さまざまな人生経験を経てなおも持ちつづけ、熱く映画について語る三上監督。黒澤明、大島渚、今村昌平など、昭和の名監督の存在感、作家性を令和の新時代に引き継ぐ、稀有な存在だ。
史実に基づき巌流島の決闘にいたる「本物の武蔵」と武蔵に関わる人物達を描く、オールロケ、リアルな殺陣、十二名の豪華俳優陣の本格正統時代劇映画「武蔵-むさし-」は5月25日、大阪ステーションシネマ、OSシネマズミント神戸、他全国でロードショー公開される。
様々な媒体で映画を鑑賞できる時代だからこそ、じっくりとスクリーンで観たい作品だ。ほかにも若林豪、中原丈雄、原田龍二、遠藤久美子、半田健人らも出演。
武蔵と吉岡一門との一乗寺下がり松の戦いのシーン
©2019三上康雄事務所
記事・上村いくみ
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