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-豊中市-キノコ栽培を通じて障害者雇用を 廃校舎を利用した挑戦が始まる

2024.11.07

昨年3月に廃校となった豊中市立野田小学校で、廃校舎の教室でキノコを栽培し、障害者雇用の創出に取り組むONE TOYONAKA。コーヒー粕を活用した循環型農業も視野に入れ、地域の活性化と社会課題の解決を目指す豊中発の意欲的なプロジェクトだ。

 

ONE TOYONAKA 中尾英理さん。精神・発達障害のある方々が革職人として働く革工房やミャンマーの貧困農家の収入をアップするオーガニックハーブ栽培など社会課題の解決を目的とした事業を行うボーダレスジャパンから、新たな事業としてONE TOYONAKAを立ち上げた。

 

キノコ栽培を通じて、社会課題の解決を目指す

大阪市出身で大学時代を豊中市で過ごした代表の中尾英理さんは、幼少期に身近な存在が命を絶ったのを機に社会課題に強い関心を抱くようになる。その後、社会課題の解決を目的としたソーシャルビジネスに取り組む株式会社ボーダレス・ジャパン(福岡市)に入社。同社の事業展開について学びながら働くうち、新規事業であるONE TOYONAKAの代表として、白羽の矢が立った。「入社して数年で事業の代表になるというのは勇気が必要でしたが、元々関心を抱いた課題に近かったので参加を決意しました」と中尾さん。

この新規事業で掲げているのは、キノコ栽培を通じた障害者雇用の創出だ。豊中市では本格的な廃校利用を2027年度以降に始める前に、期限付き貸し出しの公募を実施しており、中尾さんたちはその制度を利用した。事業を始めた背景には、支援学校を卒業した人たちの働く場所が十分に確保されていない現状があった。キノコ栽培を事業として確立し、収入と働きがいを両立できる環境づくりを目指す考えだ。

豊中市都市経営部の松原啓充さんによると、廃校舎の利活用に関して「食・音楽・スポーツ・ものづくりのいずれかの要素を満たし、豊中南部エリアの活性化に資する事業」との観点で、応募事業を精査したという。ONE TOYONAKAの事業はその観点に加え、「豊中市ではインクルーシブ教育(※)を推進しているものの、卒業後の進路についてはまだまだ不足している」との課題にも合致していた。

※インクルーシブ教育:障害のある者と障害のない者がともに学ぶ仕組み。

 

コーヒー粕を菌床に利用 さらに循環型農業にも挑戦

「当初、中古おもちゃの買取販売やカフェの運営など、複数の事業を検討しました」と振り返る中尾さん。ただ、事業の構想と合致する事業はなかなか見つからなかったという。検討を重ね、候補に挙がったのが、屋外に田畑がなくても農業ができる室内栽培。この方法であれば、気候の影響が少なく、肉体的な負荷も軽く済む。調査を続けるうち、キノコ栽培であれば比較的容易に作業できるとわかり、方針を固めていった。

ヒラタケ

タモギタケ

廃校舎の一角で育てているのは、主にタモギタケとヒラタケの2種。まだ世間に広く知られていないタモギタケは、上品な香りと芳醇な旨味が特長で、炒め物や汁物の具材に適しているほか、「記憶力や注意力の維持向上が期待できる栄養成分を豊富に含むとされているので、付加価値の高いタモギタケの栽培は、早いころから決めていました」と中尾さんは語る。

上品な香りと芳醇な旨味が特長で、栄養価の高いタモギタケ。

とはいえ、中尾さん自身はキノコ栽培について全くの未経験。始めるにあたって最適な方法を模索し続けた。調査するうち、京都市でコーヒーの搾り粕を活用したキノコ栽培を行うRE:ARTH(リアース)の倉橋大希さんの存在を知ることに。すぐさま連絡した中尾さんは倉橋さんから快諾を得て、技術協力を受けることになった。現在、コーヒー粕を用いた菌床はヒラタケの栽培に活用しており、今後はタモギタケでの活用も目指している。

さらに中尾さんは、栽培に活用したコーヒー粕を含む菌床を再利用する循環型農業の確立にも挑む。現在、カブトムシ育成への活用と、育てたカブトムシの糞を用いた堆肥づくりを検討中で、できあがった堆肥は地域の園芸店や農家などへの提供も視野に入れている。

試行錯誤を続けながら、事業の確立に向け奔走中

ただ、栽培を始めた当初は苦労の連続だった。「温度や湿度、二酸化炭素濃度などの細かな違いで、生育に差が出るんです」と、中尾さんはその難しさを語る。収穫のタイミングを数時間逃したために、品質を著しく落とす経験もしたという。試行錯誤を経て、1週間で最大約10kgのタモギタケを収穫できるまで生産量を伸ばすことに成功。中尾さんたちが作ったキノコは、庄内コラボセンターの朝市などで販売が始まっている。

左から)ONE TOYONAKAのメンバーと、豊中市都市経営部の松原さん、麻田さん

一歩ずつの成長を経て、誰もが生き生き働ける場所を

現在は、中尾さんとそのパートナー、スタッフの計3名で栽培や収穫、包装や配送といった全ての作業を担っている。中尾さんたちと作業に取り組むスタッフは障害を抱えており、支援学校を卒業した後の進路に苦心する当事者でもある。中尾さん自身、作業を指示する場面では教える難しさに直面することもあるというが、それでも日々の着実な歩みに手応えを得ている。

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