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シティライフアーカイブズ【北摂の歴史記録】 第8回 マチカネワニの発見

2020.02.14

現在、そして未来にもつながる過去の情報を取材、編集し、記録する特集です。
北摂の歴史から、私たちの住むまちの魅力を学び知る機会になればと思います。
豊中市のゆるキャラ「マチカネくん」にもなっている「マチカネワニ」について取材をしました。

歴史案内人

取材協力 西岡佑一郎さん ミャンマーやタイなど海外での発掘 調査を経て、昨年10月より大阪大学総合学術博物館の研究支援推進員に。過去のネズミやウシなど哺乳類の化石と進化を専門に研究。

マチカネワニの発見 ‐1964年‐

巨大ワニの化石発見
「化石産地」として知られていた待兼山にある、大阪大学豊中キャンパスの理学部の建設工事現場で、1964年、化石マニアの2人の青年が日本で初めてワニの化石を発見した。2人がこれを大阪市立自然史博物館の学芸員のもとへ鑑定に持ち込んだことを機に、大学の研究者による本格的な調査が始まった。その後、1メートルを超える頭骨などが続々と発掘された。「鑑定されなければ、化石は現在も大学の建物の下に埋まったままか、もしくはブルドーザーで粉々に破壊されていたかもしれません」と西岡さんは話す。
化石は約45万年前のものとされ、日本にも巨大ワニがいたことを示す世界でただ一つの標本だ。本来は収蔵庫に保管される貴重なもので、レプリカではない実物が展示されることは珍しい。しかし、一般の人にも広く見てもらいたい、という当時の館長である江口太郎さんの想いから、現在も待兼山修学館で公開展示されている。他のワニには見られない変わった特徴を持つマチカネワニには謎が多く、1965年の研究発表で「マチカネワニ」と呼ばれるようになってからも、専門家の間で様々な説があった。
1983年、再研究によって全く新しい属のワニであることが発表され、古事記に出てくるワニの化身であるという豊玉姫にちなんで「トヨタマヒメイア・マチカネンシス」と命名された。

ワニの化石 待兼山修学館では、頭から尾骨まで組み立てられた全長7メートル以上のマチカネワニの化石の実物を見ることができる。他にも、古墳から出土した土器などが展示されており、待兼山の自然や文化の歴史を感じられる。

発見されたマチカネワニの頭骨

発見当時(1964年)の大阪大学理学部

マチカネワニの発掘風景

学術的に価値が高く、世界的にも注目
マチカネワニの祖先は約5700万年前のヨーロッパにあり、進化を繰り返しながら南アジアを経て日本に達したと推測されている。化石が発見された大阪層群の植物化石を調べると、当時は現在と同じような温暖な気候だったという。つまりマチカネワニは、熱帯性ではなく珍しい温帯性のワニということになる。「低い気温の中では生きられないはずのワニが、どうして冬は0℃近くになる大阪で生存できていたかが不思議です」と西岡さん。また、あごと足に骨折してから治癒した痕跡があることから、このワニがオスで、他のオスと闘争していたと推理されている。さらに、中国に数百年前まで生息していたワニがマチカネワニと似ており、これが龍の起源となったのではないかという説もある。
マチカネワニは、ほぼ完全な全身骨格化石標本のため、日本の動物学においても、ワニ類の進化を解明する研究においても学術的な価値が高く、世界的にも注目を集めている。しかし、2006年の北海道大学との共同研究でようやくどんなワニかが分かってきたところだと西岡さんは話す。「当時の環境で生息できたマチカネワニが、なぜ絶滅してしまったのか。これは、今後の若い研究者のテーマになるのではないでしょうか。研究はまだ始まったばかりです」。

2007年に新しく復元されたマチカネワニとその取り巻く環境。

ワニの分布。 変温動物であるワニは低い気温の下では生存できないため、ほとんどはアフリカ大陸やインド、東南アジアなど赤道より下のあたたかい熱帯・亜熱帯地域に分布している。 温帯性のマチカネワニが珍しいことが分かる。 写真・地図出典 : 大阪大学総合学術博物館叢書 5 マチカネワニ化石

取材を終えて
平成26年10月6日に国登録記念物に登録されたマチカネワニ化石。世界中の学者がこの化石を見るため訪れるというこの「待兼山修学館」も2008年に国の登録有形文化財になっています。この修学館は待兼山から出土した埴輪や古墳の復元模型の展示や「みる科学」など、常設展示されています。取材で初めて訪れたのですが、その充実の展示物に驚きました。
大阪大学
総合学術博物館
待兼山修学館
豊中市待兼山町1-20
Tel: 06-6850-6284

編集部 尾浴 芳久

記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。