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シティライフアーカイブズ【北摂の歴史記録】 第11回 世界一無駄のない空港

2020.03.03

現在、そして未来にもつながる過去の情報を取材、編集し、記録する特集です。
北摂の歴史から、私たちの住むまちの魅力を学び知る機会になればと思います。
第11回は「大阪国際空港」について関西大学の学生がレポートします。

歴史案内人
関西大学政策創造学部の深井麗雄ゼミの3年次生2人が空港関係者、豊中市役所の担当課などを訪ね取材しました。

世界一無駄のない空港
‐大阪国際空港‐ その意外な顔

大阪の都心部から半時間の大阪国際空港。かつては騒音公害で住民が国と最高裁まで争ったが、住民側に一定の理解を示した司法判断や反公害運動の高まり、騒音規制の進展などが重なって半世紀。同規模の空港では「世界一無駄のない空港」に変身し、農園まで併設した。今では滑走路わきで刈り取った草に由来する「エコ印」のアイスクリームやカレーまで直売するが、滑走路予定地から2千年前の遺跡が発掘されたこともある。100年近い歴史の波間に浮かんだ国際空港の意外な顔をのぞいてみよう。

スタートは水陸両用だった
1923年、大阪市内の木津川尻の埋め立て地に、大阪では初めての飛行場が開設された。水陸両用だったが近くに工場の煙突が林立するなどの難点があり、1939年に現在地に移転された。これが大阪第二飛行場で、第二次世界大戦中は軍用飛行場として使用された。敗戦後は大阪国際空港と改称し、高度経済成長期には航空機の大型化、ジェット化が進み、1970年の万博前後に大規模な拡張も行われた。関西国際空港の完成に伴い、大阪国際空港は国内線中心となり、国内線年間旅客数は国内五位の約1,462万人(2014年度)だ。

1971年当時の空港全景。(大阪府公文書館所蔵)

定時運航率で世界一(2014年)になった大阪国際空港。(新関西国際空港株式会社提供)

眠る大集落遺跡は弥生時代
勝部遺跡の本格的な発掘は1967年からスタート。弥生時代(紀元前4世紀頃〜紀元後3世紀)と見られる多くの住居跡や土器、墓、人骨などが見つかった。
遺跡は滑走路の南端部分にあり、直径80メートルに及ぶ大規模なものだ。この一帯から多くの石庖丁やイノシシやシカなどの獣骨が見つかっており、当時の人々は水稲栽培を基盤に、北摂の山野を豊富な動物性蛋白源としたことがうかがわれる。

「勝部遺跡発掘調査団」の看板が掲げられ、プレハブの事務所も設けられた発掘現場。

大量の土砂を搬出しながらの発掘作業だった。

住居跡を詳細に調べる調査員たち。(豊中市提供)

墓域から見つかった人骨。(豊中市提供)

騒音公害から規制へ
大阪国際空港の発展に伴い、周りの住民達は騒音被害に悩まされていた。1969年以降、被害住民達は国を相手に午後9時から午前7時までの夜間飛行差し止めと損害賠償などを求めて次々に提訴した。最高裁は1981年の判決で、飛行差し止めは却下されたが、過去の損害賠償や低騒音のエアバス導入は認めた。一方で国も反公害運動の高まりなどを踏まえ、最高裁判決の前からジェット機の発着規制を強めた。1976年には21時から翌朝7時までの全発着便が事実上廃止された。1990年に大阪国際空港の周辺の11市と「大阪国際空港の存続及び今後の同空港の運用等に関する協定」が結ばれるとともに、プロペラ機を低騒音機材で使用するなどの発生源対策や周辺の環境保全対策も進んだ。

空港周辺を視察する1979年当時
の岸昌知事。(大阪府公文書館所蔵)

無駄のない空港
イギリスに拠点を置く航空機運航情報会社OAGが実施した定時運航率ランキング調査(2014年)で、大阪国際空港が中規模空港部門で世界第1位となった。「お客様を待たせない」をモットーにしたチームワークが成功した、という。

アイスとカリーと奈良のしか
「エコエアポート」への取組み

大阪国際空港で「エコエアポート印」として商品を開発、販売する動きが始まったのはここ数年だ。そのきっかけは、滑走路わきに生える、不時着陸時の衝撃を抑えるための草だった。年間900tもの刈り草をどう処理するか。研究の末、刈り草を動物の飼料や肥料に加工することに成功した。この刈り草を食べた牛からとれたミルクから作られたものが、アイスクリーム「ITMSOLAVANILLA」だ。空港産のアイスが売られているのは大阪国際空港と関西国際空港だけである。この飼料は、餌不足に悩まされていた奈良公園のシカたちにも提供されている。また前述の肥料を無償提供した能勢町にある農園「良作くんファーム」で育った野菜で「大阪空港カリー」も開発し、大阪国際空港「限定」で販売している。

発売された「大阪空港カリー」。
(新関西国際空港株式会社提供)

発売されたアイスクリーム。
(新関西国際空港株式会社提供)

空港内に設けられた農園。
(2015年11月、ゼミ生が撮影)

取材を終えて
新関西国際空港株式会社の担当者に取材して意外だったのは「同規模空港では定時運航率世界一」というデータでした。なんだか難しそうな業界用語でしたが、平たくいえば「無駄のない空港」と感じました。またアイスクリームやカリーの由来、騒音被害や遺跡の話も我々のような世代のものには、初めて聞く意外な話で、今後も北摂の歴史に眠る話題を発掘するつもりです。
関西大学政策創造学部 深井麗雄ゼミ  3年次生 金ユミン、植田理乃

記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。