【編集部】 ラトビアに恋して
2020.04.17
バルト海を臨むヨーロッパ北西に位置するラトビア共和国。面積は、日本のおよそ6分の1にあたる6.5万㎢で、その45%が天然林という自然豊かな国だ。日本との親交は深く、首都リガと神戸市は、1974年に姉妹都市になっている。
この国に、伝統工芸として受け継がれる色鮮やかなミトンがある。今回は、そんなミトンに魅せられ、「ラトビアに恋した」と話すミトン作家・鈴木亜衣さんに話を聞いた。
ラトビアミトンとの出会い
2014年、鈴木さんは北海道で福祉関係の仕事をしていた。当時からミトンを編むのが好きで、北欧柄のミトンを編んだり、小さなミトンをキーホルダーにして友人にプレゼントしたりしていた。
麻の 葉 を モチーフ に した 作品
波を モチーフ に した 作品
そんなとき、友人と待ち合わせをしていた本屋で目に飛び込んできた一冊の本。それが『ラトビアの手編みミトン』(中田早苗編/誠文堂新光社)だった。
「もう、見た途端『何これー!めっちゃ可愛い!!』って思って。中身をパラーと見てすぐ買いました」と話す。
昨年ひらかれた 作品 展
ページをめくるたびに現れる愛らしいミトン。毎日、夢中で編み続けた。気が付くと夜が明けていることもあった。
そうして1年が経った頃、ふと本のあるページに目が留まった。そこには、毎年6月にラトビアで開かれる「民芸市」で撮られた写真が載っていた。民芸市とは、ミトンや、木のかごバッグ、琥珀のアクセサリーなど手作りの品がラトビア全土から集まるマーケット。その会場となる森の広場で、祖母、母、娘と三世代が糸を紡ぐ写真があった。
『増補 改訂 ラトビア の 手編み ミトン 』 2 019/ 中田 早苗 編 誠文堂新光社
「もうこの写真が大好きで!すごく愛を感じるんですよね、こういう手仕事って」。
世代を越えて脈々と受け継がれる手仕事、自然の恵みから生まれる手作りの品、何より本物のミトンが見たくなった。そして2年後、鈴木さんは、神戸のラトビア雑貨店が主催するツアーで、民芸市へ向かった。
森の民芸市へ ~「knitting continue (ニッティング コンティニュー)」~
色鮮やかなミトン が 並ぶ
手づくりの 木 の かご
フードも 充実 している
初めて訪れた森の民芸市は、感動の連続だった。「もう、最高でした。今まで無かったんですよ、国に恋するって」。
本物のラトビアミトンにも出会った。「本物のミトンは色使いも模様もさまざまで!作り手が目の前にいるのも感動でした」。
そしてここで忘れられない出来事があった。それは日本で本を見て憧れていた、親子三世代で糸を紡ぐ一家との出会いだった。その家族は、鈴木さんが訪れた年も、本で見たのと同じ場所で、同じように糸を紡いでいた。
鈴木さんは、英語が話せないのも忘れて話しかけ、身振り手振りで、ラトビアが大好きなこと、自分もミトンを編んでいることを伝え、そして日本から大切に持ってきた自分のミトンを見せたのだった。
鈴木さんのミトンを見て、祖母アニータさんは微笑みながら「knitting continue(編み続けてね)」と言ってくれた。
アニータさん一家と
「もう号泣しちゃって!あぁ、編み続けて良いんだって」と鈴木さんは当時の気持ちを振り返る。この言葉がきっかけになり「自分の好きなことに正直になって良いんだ」と思えるようになったという。
その後も、鈴木さんは毎年民芸市を訪れ、家族との交流は今も続いている。
ラトビアのミトン
ラトビアのミトンには、神話に登場する神々や自然をモチーフにした文様が織り込まれている。それぞれの文様は意味を持ち、古くから女性たちは、贈る相手を思う気持ちや願いをミトンに込めてきた。
例えば、星をかたどった「アウセクリス」。この文様は夜の闇を退け、新しい朝の訪れを伝える明けの明星を表している。この光には、悪いものから身を守る力があると考えられ、大切な人の身にまとうものに織り込まれた。
アウセクリスを 編み込んだ作品
大切な誰かを思い、願いを込めて文様を編み込んでいく―――こうして、文様は親から子、子から孫へと伝えられ、時を越えて現代まで受け継がれてきた。
ラトビア神道 を 現代 に 伝える グンタ さんと
鈴木さんは、文様を編んでいるとき「ラトビアの先人たちの思いを感じる」という。「会うことはできなくても、編みながら対話できてる感じがする」。
時を越えて受け継がれる、大切な人を思う気持ち。鈴木さんも、ミトンに込められたそんな思いをつないでいけたらと願っている。
【編集部シマ】
取材協力
ミトン作家・鈴木亜衣さん
作品や展示会のお知らせは
鈴木さんのinstagram@ai_suzuki_toで!
記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。