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CULTUREコラムVOL.12 梅花から「令和」を込めて

2020.09.28

実はいくつ?

秋の味覚はいろいろありますが、栗を話題にしてみましょう。お店では、茶色い粒で売られていることが多いと思うのですが、木に成っている実は、鋭いイガで覆われた殻の中に入っています。ひとつの殻の中に、実はいくつ入っていますか?
『万葉集』が収める柿本人麻呂家集の中には、

松反(まつがへ)りしひてあれやは三栗(みつぐり)の中上(なかのぼ)り来(こ)ぬ 麻呂といふ奴
松反 四臂而有八羽
三栗 中上不来 麻呂等言八子
(巻9・1783番歌)

と詠まれた歌が残されています。三句目に「三栗」とあるので、ひとつのイガの中に三つの実が入っています。真ん中が大きく育つので、「中」へとかかる枕詞として使用されました。
この歌には、夫が先に、

雪こそは春日(はるひ)消ゆらめ心さへ消え失せた れや言(こと)も通はぬ
雪己曽波 春日消良米
心佐閇 消失多列夜言母不徃来
(巻9・1782番歌)

と詠んでいます。「雪なら、春の日差しにとけて消えてしまうだろうが、(あなたは)心まで消えて失ってしまったのですか、言葉もかけてくれなくなって」と、妻への不満を歌にしてぶつけました。これに妻が、「(鷹は)松に返るというのに、(この人は)ぼけてしまったのかしら。イガの中に三つある栗の実は、真ん中が立派であるのに、(途)中で私の所へ上って来もしないで(文句ばかり言っているわ)、しょうもない麻呂という奴ね」としっぺ返しています。「上り」とあるのは、夫が地方赴任をしているようで、報告などの折りに都へ上り来ることを指しています。この時、自身のもとへ立ち寄らない夫に「麻呂の奴め!」と怒っています。
「夫婦喧嘩は犬も食わない」といいますが、作者のお二人には、「どうぞそのまま、栗でも食べてお幸せに」と、いって終わることのようです。万葉歌に用いられる比喩表現は、生活感にあふれています。

 

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梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

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