地域情報紙「City Life」が発信する地域密着のニュースサイト

豊中高校 能勢分校 次の挑戦は
エネルギー事業での経済循環

2020.10.04

能勢・豊能地域で唯一の高校・能勢高校(能勢町上田尻580)が再編され、2020年に3学年とも豊中高校能勢分校の生徒となった。同校は定員割れが続き一時は廃校も心配されたが、文部科学省からSGH(スーパーグローバルハイスクール)※に指定されるなど、町ぐるみの応援もあって存続を果たした。そんな先輩や町民の想いを引き継ぐ生徒たちが次に挑むのは、「エネルギーを軸とした地域の経済循環」。高校を中心に動き出したまちの姿を追った。

― 5年前の快挙

少子化や人口流出に歯止めがかからず、存続できなくなるおそれがある自治体「消滅可能性都市」と言われる能勢町。2016年には小中学校合わせて7校が小中一貫教育校に統廃合され、能勢高校も10年連続で定員割れとなり廃校の危機に直面した。一方で、それより以前の2002年に文科省から中高一貫教育推進校の指定を受けると、3年間の研究を経て府内初の連携型中高一貫校・総合学科をスタート。2014年にSGH事業を踏まえた「SGHアソシエイト校」に認定された後、マレーシアの高校との姉妹校提携、農業の6次産業化、商品開発、養蜂の授業の特色化などのプログラムを展開。これらの取り組みが評価されSGH認定へと繋がった。また有志による「能勢高校を応援する会」(現在は「能勢の高校を応援する会」)の尽力もあって豊中高校能勢分校として教育活動を継承することに。定員割れが続く厳しい状況ではあるが、地域で唯一の高校の存続に町は歓喜に沸いた。

― 教育現場と連携した
  電力事業の推進

しかし、これで安心できる訳ではない。過疎化が進む地域は、若年層が地元を離れると戻らないことが多く「人材のサイクル」ができないため、一層過疎化が進むというスパイラルに陥りやすい。町は「高校生までに地元を知り、親しみを持つようになれば、将来的に地域を支える人材となったり、Uターンで戻ってくる可能性も高い」と考え、同校を重要な「人材供給拠点」と位置付けた。同時に地域の魅力を向上させるため、地元に還元できる電力事業を推進することに。教育現場と連携した取り組みを開始した。
注目したのは町の8割を占めるという広大な森林。間伐材などは、薪やペレットに加工して熱源にしたりガスを発生させたりすることによって電力を得る「バイオマス発電」に利用できる。放置された森林は土砂災害を引き起こす危険性もあるため、バイオマスへの利用が実現すれば、防災にも繋がると考えた。

― 自治体が電気エネルギーなど提供
  「シュタットベルケ」

地域振興とエネルギー事業を結びつけるキーワードは「シュタットベルケ」だ。シュタットベルケとは、ドイツにおいて自治体が出資する地域事業者が電気やガスなどを提供し、その収益で住民サービスを拡げる公益企業で、日本の地方自治体でも注目が集まっている。日本版ではシュタットベルケの考え方を元に、自治体が主体となり、地域の特徴に応じた再生エネルギーやサービスを導入する。結果、地元への還元や雇用の創出など地域課題の解決に貢献するほか、新たな経済循環も生まれるという。上森一成町長は「エネルギーと食料の自給率が100パーセントを超えれば、これほど強い町はない」と期待を寄せる。高校では、環境省や専門家などを招いて公開講座を定期的に実施し、地域のエネルギー事業やドイツの現状、シュタットベルケなどの理解を深めてきた。ワークショップでは高校生自ら地域エネルギーの利用方法について議論を重ね、小中学校でも出張授業を実施。昨秋には2年生4人と上森町長を含む視察団がドイツへ行き、シュタットベルケや、森林と生活が密接にかかわるドイツの教育、文化などを学んだ。

2018年の春から各機関の専門家を招いて定期的に公開講座を実施。今では小学生でも「シュタットベルケ」を知っているとか。

2019年9月のドイツ・ブロリン市研修旅行では、シュタットベルケでバイオマス発電について詳しく学んだ。

― 8月に電力会社設立
  今後は公共事業体を推進

生徒らは5年間、地域課題と向き合いエネルギー事業に希望を見出してきた。これらの経験をきっかけに、地方創生やグローバルリーダー、また能勢での起業を目指す卒業生も出てきている。今年8月には能勢町・豊能町が地域の民間団体と組んで新電力会社を設立。まずは再生可能エネルギーとして、太陽光パネルの設置や電力の買い取りなどを実践していくという。能勢のシュタットベルケは公益公社の運営だけでなく、若い起業家などを生み出す公共事業体としての役割も見据える。高校も参加してまちの課題解決にアイデアを出すなど地域貢献していくという。能勢のエネルギー事業は始まったばかりだ。高校生たちの今後の活躍にも注目したい。

研修旅行や里山学習など、シュタットベルケについて学ぶ高校生たちの姿は、テレビでも多数放送された。地域協働推進(グローカル型)事業のメインメンバーとして活躍する中植航太さん(3年=写真左)は、今ではちょっとした有名人。

まちと高校が提案する「能勢版シュタットベルケ」

 


※SGH(スーパーグローバルハイスクール):将来、国際的に活躍できるグローバルリーダーの育成を目的に、文部科学省が指定する制度で期間は5年間。2014~16年の間で123校が指定。2019年度からは後継事業となる「地域との協働による高校教育改革推進事業(グローカル型)」が開始。能勢分校は、今年度この事業の「事業特例校」として3年間の指定を受けている。

記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。