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地震追って90年 ― 高槻・京大阿武山観測所 ― 〈上〉

2020.10.06
高槻市塚原地区から望む阿武山観測所。山の緑に塔が鮮やかに浮かぶ。

 

山の緑に薄いクリーム色の塔が映える。高槻、茨木市境に位置する阿武山山頂(281m)南の尾根に立つ、京都大学防災研究所付属地震予知研究センターの阿武山観測所(高槻市奈佐原)だ。1930年の設立以来、90年もの間、日本の地震研究の重要な一翼を担ってきた。その歴史や研究成果などについて、3回にわたって紹介する。

麓からよく目立つ建物は、2階建ての西館と3階建ての本館からなり、面積は延べ約2,000㎡ある。塔の高さは30m。実はこの塔、所長の飯尾能久(よしひさ)・防災研教授=地震学=によると、国家の事業の偉容を示すため、現在のJR京都線から見えるようにと設計された。「研究には不要。むしろ邪魔」と飯尾所長は苦笑いする。

阿武山観測所の歴史や現況を語る飯尾能久所長=高槻市奈佐原の同観測所。

それでも観測所は時々の最新の地震計を導入、1943年の鳥取地震や48年の福井地震などの観測で地震現象の解明に大きく貢献した。防災研が岐阜県以西に展開する8観測所の中で最古の施設だが、現在も防災研の小型の地震観測システムの中核として、南海トラフ巨大地震や内陸地震の予知のためのデータを蓄積している。さらに敷地内で34年、藤原鎌足の墓とされる国の史跡・阿武山古墳が発見されたことでも知られる。

90年にわたって地震のメカニズムに迫ってきた阿武山観測所。

一方で、ここの大きな特徴は外に開かれた施設であることだ。2014年の耐震改修までほぼ当初のままだった建物に加え、歴史上重要な地震計がいくつも残り、市民に地震を学んで防災を考えてもらう科学博物館としての役割も果たしている。地下に展示室があり、かつて使われた機器が並ぶ。2月を最後にコロナ禍で中止しているが、年に60回ほどの見学会を催し、約2,000人が市民ボランティアによる解説に聴き入ってきたという。

地下展示室にある地震計のひとつ「佐々式大震計(たいしんけい)」。1934年に2代目所長が開発し、97年まで使用された。

また、昭和初期の雰囲気がそのまま残っていた建物は、テレビドラマや映画のロケでも使われた。11年公開の映画「プリンセス トヨトミ」の撮影もあり、玄関ホールにはいまも出演の綾瀬はるかさんが座ったというパイプ椅子、「アヤセハルカイス」なるものが置かれている。
1980年ごろには15、6人が働いていた施設も、設備や人員が京都府宇治市の防災研本体に移り、現在常勤は2人だけだ。広い館内、やや寂しい感じは否めないが、飯尾所長は「何とか11月には見学会を再開し、また多くの人に訪れてもらいたい」と話す。

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