地域情報紙「City Life」が発信する地域密着のニュースサイト

CULTUREコラムVOL.13 梅花から「令和」を込めて

2020.10.31

紅か黄か

木々の葉が、美しく色づく季節になりました。『万葉集』を開くと、山部王という人が、「秋葉を惜しむ歌」と題して、次のように詠んでいます。

秋山にもみつ木(こ)の葉(は)の移りなば更にや 秋を見まく欲りせむ
秋山尓 黄反木葉乃
移去者 更哉秋乎 欲見世武
(巻8・1516番歌)

「秋山に色づく木の葉が散ってしまったら、更に秋を見たいと思うだろうか」と。原文を見ると、初句は「秋山に」と読むことができます。まだ平仮名を持たなかった日本人が、漢字の訓と音を使い分けて、日本語を書き表しています。二句の「反」は、「変」と同じ意味で使われているので、「黄色に変わる木の葉の」と直訳することができます。今日でいう「紅葉」のことです。

妹がりと馬に鞍置(くらお)きて生駒山打ち越え 来(く)れば紅葉(もみぢ)散りつつ
妹許跡 馬桉置而
射駒山 撃越来者 紅葉散筒
(巻10・2201番歌)

こちらの歌は、奈良の都からでしょうか。「彼女のもとへ(出かけよう)と、馬に鞍を置いて生駒山を越えてくると、紅葉が(はらはらと)散り続けている」と。「紅葉」の表記がないわけではありませんが、『万葉集』では、「黄葉」が圧倒的に多く用いられています。外来の漢字を、学習したままに利用しているからです。平安時代になると「紅葉」の使用が増えます。
はじめに紹介した一五一六番歌に戻ると、第三句の「更にや秋を」の解釈は、「また来年の秋」と訳すのか、木の葉が散りゆく「秋」を惜しんで「更に」見たいと思うだろうかと訳すのか・・・。
思いをめぐらせながら、移りゆく景色を楽しみたいと思います。

 

◊   ◊   ◊   ◊   ◊

 

梅花女子大学教授 市瀬 雅之

現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数

 

記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。