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-高槻市-高槻市の取り組みから見る水道の現在と未来

2024.09.25

「水道が使えて当たり前」の暮らしに潜む問題

私たちの暮らしに欠かせない“水”。蛇口から水が出てくる当たり前の光景には、実は多くの課題が潜んでいる。昨今、全国的に取り沙汰されているのが、老朽化する水道管の更新と耐震化への対応だ。法定耐用年数である40年を超える全国の水道管は、2019年の時点で全体の20%以上を占め、耐震化の進捗率は、全体の40%に留まっている状況だ。

高槻市水道部に話を聞いたところ、市内の水道管をすべて合わせた距離は2022年度末の時点で約1,075キロ。高槻市から札幌市までを直線で結んだ距離に相当する。そのうち約200キロが法定耐用年数を超え、約580キロが今後20年で法定耐用年数を超えるとされている。

耐震化への対応

老朽化した水道管を放置すると、災害時の水道水供給に大きなリスクをともなう。最大震度6弱を観測した2018年の大阪府北部地震で、大阪広域水道企業団の水道管破裂による大規模な断水被害は記憶に新しいだろう。

耐震化への対応については、全面的に更新を進めようとすると膨大な時間と費用が発生するため、市では基幹管路と重要給水施設管路を設定し、耐震化を進める方針を打ち出している。

基幹管路と重要給水管路を優先的に整備

基幹管路とは、取水施設から配水池までを結ぶ管路や、各家庭などに水を送る管のうち主要な管路で、被災すると広範囲に影響を及ぼすことになる。また、重要給水施設管路は、災害時に特に水を必要とする拠点病院や救護所等に至る管路を指し、優先的にこれらの耐震化を進めている。

 

水道事業の安定経営を続けるために

ライフラインである水道管の強靭化のほかにも、対応すべき問題がある。それは水道事業の安定経営だ。水道管1キロあたりの更新費用は約2億円が必要であり、着実に耐震化を進めるには、膨大な事業費を要する。加えて、原材料価格や電気代の高騰もあり、水道管の更新や各施設の維持管理にかかる費用が年々上昇している点も見逃せない。

これらの費用は、税金ではなく私たちが支払う「水道料金」でまかなう独立採算制が水道事業運営のルールとなっている。その水道料金を見てみると、人口減少や節水機器の普及、ライフスタイルの変化によって、水の使用量が減少し、減収へとつながっている。

高槻市の水道料金

高槻市の水道事業は企業債にも依存せず、水道料金による収入で運営しているため、水道料金の減収は大きな痛手だ。特に、使用量が増えるほど1㎥の単価が上がる設定のため、少量使用者には原価割れの料金で水道水を提供していることになるが、近年は使用量の減少により、ほとんどの使用者が原価割れとなっている。

有識者や市民代表からなる「高槻市水道事業審議会」から、水道料金の見直しや企業債の借り入れを検討すべきとの意見も出ているという。高槻市水道部では、これらの意見を踏まえた具体的な検討を進めているとのことで、今後の進展を注視したいところだ。

 

市民の理解を深める多様な広報活動

ところで、私たちは日常生活でどれほどの量の水を使っているのだろうか。この答えは、家庭内で1人が使用する水の量はおよそ230リットルにも及ぶ。このように、身近なはずの水道について、実は知らないということは数多くある。そこで高槻市水道部は、水道事業への理解を深めるため、様々な広報活動を展開している。前述の審議会の答申内容をまとめたリーフレットを市内全戸に配布したほか、イベントでのパネル展示やクイズ企画など、経営面や防災対策の情報発信を継続している。

全戸配布している水道事業の現状をまとめたリーフレット

これらの情報発信を行う中で、「水道事業の運営が税金ではなく水道料金で行われていると初めて知った」「水道のことを子どもと一緒に知ることができた」といった感想が多く寄せられているという。今年は、百貨店やショッピングモールなどでの出展も行い、1人でも多くの方に水道について考えてもらえる機会を作る取り組みも進めている。

災害時に役立つ水の情報を発信する「みずから防災」

また、市民を対象にしたアンケート結果からは「災害に強い水道」へのニーズが高まってきている。そんな中、高槻市水道部では1人1日3Lの飲料水備蓄を呼びかけるなど、啓発にも力を入れている。水道にまつわる防災情報を発信する動画「みずから防災」の発信もその一環だ。

「水道を使えるのが当たり前」の暮らしを守り続けるため私たちにできることは、これらの情報を知り、考えることが第一歩となるだろう。

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