-吹田市- 山田地区の「権六おどり」が大阪・関西万博の舞台へ 1970年と2025年をつなぐ地域の踊り手たち
2025.07.04
吹田市山田地区に江戸時代から伝わる「権六おどり」が、7月に大阪・関西万博で披露される。その晴れ舞台には、1970年万博で踊りを披露した経験者たちも立つ。地域の伝統を後世に伝え続けている「山田地区権六おどり保存会」の皆さんに話を聞いた。
腕利き大工の昔話から生まれた地域の踊り
権六おどりの起源は江戸時代中期にさかのぼる。舞台は当時の円照寺(山田東)。昔々、寺の普請を担った権六という宮大工がいた。権六には想い人のお杉という村娘がいたが、当のお杉は円照寺の和尚さんに恋をしてしまう。その噂を耳にした権六は普請の手を止め、村の衆は困り果ててしまった。そこで庄屋の善兵衛は、お杉から託された和尚さんへの恋文を、権六に宛てた手紙だといって渡すことに。すると権六は再び普請に精を出すようになり、最終的に立派な寺を建てた。その出来栄えを喜んで踊りながら眺めた彼のひょうきんな動きを真似たのが、権六おどりのはじまりだと伝わっている。
保存会の会長を務める村上信彦さんによると、かつては三島地域で広く踊られていたという。ところが、時代とともにハイテンポな河内音頭などに人気が集まるようになった。現在は山田に残るのみ。その理由を尋ねると、「やはり円照寺のお膝元だから、絶やしたくないんですよ」と語る。
歴史をつなぐ踊りの輪、より盛大に
大阪・関西万博の「大阪ウィーク」では、吹田市の出展イベントとして権六おどりを披露する機会が設けられた(7月28日開催予定)。市民にも参加を募ったところ定員の60名を大きく超える応募があり、予定を上回る規模での開催も検討されている。
保存会の一員として参加する岡本和子さん(91)と辻本愛子さん(88)は、1970年の大阪万博でも踊った経験がある。「今回の出展が決まったときは、『それまで元気に踊っていられるかな』と不安でした」と口をそろえる。

辻本愛子さん(88)と岡本和子さん(91)。権六おどりには「善兵衛」という庄屋が登場する。なんとこの人物、岡本さんのご先祖にあたるそう。
実は1970年の大阪万博では吹田音頭などを踊り、権六おどりを披露することはなかったという。当時指導にあたっていた民謡の先生から「立派な踊りがあるのに、地元で踊らないのはもったいない」と勧められたのをきっかけに、万博の会期後に地域で練習を重ねていった。吹田まつりで披露したのを皮切りに地域イベントへの出演が増えていき、大阪花博や愛・地球博、ついには海を渡り上海万博の大舞台も経験した。「先人から受け継いだ伝統を後世に伝えていけるように」と岡本さん。

山田地区権六おどり保存会の会長を務める村上信彦さん。
愛されてきた踊りを、次の時代に託すために
「田んぼと竹藪ばかりで水道もろくに通っていなかった」と辻本さんが回想する山田の原風景は、過去の万博とニュータウン開発で大きく変わった。新たな住民が増える一方、古くからの集落では少子化が進み、権六おどりに関わる人は減り続けているのが現状だという。現在は約40名規模で活動しており、世界中から集まった人たちの前で披露できる今回の舞台は、末永く受け継いでいくための重要な機会だ。とはいえ、誰でも気兼ねなく楽しめるのが権六おどりの原点。村上さんたちは「見物しているみなさんも、身振り手振りを真似して一緒に参加してもらえたら」と呼びかけた。
記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。