-茨木市- 茨木「とりすき」復活 市民と行政、民間事業者が共創
2026.07.09
かつて茨木市の家庭で親しまれた郷土料理「とりすき」を新名物として復活させる一大プロジェクトが、市民と民間事業者、そして行政の連携で進められている。途絶えかけた食文化を文献から掘り起こし、文化庁「百年フード」登録を目指す。民間事業者のノウハウも交え、地域の記憶を未来へ繋ぐ茨木ならではの共創の姿を取材した。
途絶えかけた食文化・とりすきを発見
かつて茨木市の家庭では、祝い事や祭りの日などの特別な「ハレの日」に、飼っていた鶏を使った「とりすき」を囲む食文化が根付いていた。しかし、時代の変化とともに家で鶏を飼う習慣がなくなり、すき焼きといえば牛肉が主流となったことで、現代では60代以上には馴染み深いものの、若い世代にはほとんど知られていない存在となっていた。
この途絶えかけた食文化に光を当てたのは、茨木商工会議所の中野さんである。中野さんは昭和5年に発刊された「三島郡名著営業家案内」という文献の中に、「かしわのすき焼き」という記述を発見した。「よそから来て、ご当地グルメがないのはもったいないとずっと思っていました」と当時の心境を振り返る。ここから、歴史に埋もれた食文化の発掘が始まった。

昭和5年に発刊された当時のフリーペーパー「三島郡名著営業家案内(一部)」に「とり粂(茨木市元町8-3)」が掲載されており、そのなかに「かしわのすき焼き」がメニューとして紹介されている。茨木神社の社務所に保存されている。



百十年前からの鶏肉文化
調査を進めると、明治40年に豊川村(現在の茨木市の一部)の行事で「とりすき」が振る舞われた記録も発見され、110年以上前から地域で愛されていた食文化であることが実証された。かつて茨木市の近隣には家畜場で鶏が飼育されていたり、大阪で一番歴史のある精肉店があるという背景も、鶏肉文化の定着を後押ししたと考えられる。
当時の農家では、卵を産まなくなった「ひね鶏」をすき焼きにして食べていたという。 成田家(茨木市別院町)の店主浅川さんは「農家には必ず鶏がおり、卵を産まなくなったら食べるしかなかった。食べ方も焼くわけではなく、ほぼ鶏すきでした」と語る。日常の食卓ではなく、あくまで家庭料理として親しまれていたことがうかがえる。
行政と民間事業者の共創力
本プロジェクトの大きな特徴は、市民や行政だけでなく、民間事業者も関わり、共創している点である。中野さんが歴史を掘り起こす一方で、浅川さんも行政の補助事業を通じ、大学と共同で家庭の味であるとりすきの缶詰を開発するなど、飲食店としてのノウハウを活かしたアプローチを行っていた。
別々に動いていた二人の活動は、令和6年度に実施した市の「茨木共創部」を機に結びついた。茨木市共創推進課の的場さんは「最初は何をするか決まっていないゼロベースの部活でしたが、中野さんの熱意をきっかけにテーマの一つとして動き出しました」と経緯を説明する。こうして、商工会議所、民間飲食店、市役所、さらには多様な市民も加わり異なる立場のメンバーで具体的な議論が開始された。
飲食店の知見活かす試食会
プロジェクトでは、歴史的な裏付けをもとに試食会を開催した。昔ながらのひね鶏は特有の出汁の旨味がある一方で、現代の若者には硬いと敬遠される可能性があった。そこで、浅川さんら飲食のプロが中心となり、昔ながらのレシピと現代の味覚を融合させる試みが進められている。中野さんは「一人では10年かかってもここまで来られなかった。やっぱりチームで団結したときのパワーはすごいなと思います」と多様な主体が集まる共創の力を振り返る。

プロの料理人を交えた、とりすきの調理と試食会の様子。
また、市内でとりすきを提供する協力飲食店を募る活動も行われている。ルールは「国産鶏肉を使用する」「茨木市産食材を一つ使う」のみに絞り、味付けなどは各店の個性を活かしてほしいと考えている。浅川さんは「鶏肉も、モモ肉だけに偏りがちになってしまうが、お店ではご家庭には出ないようないろんな部位を提供できたり、いろいろな味を楽しんでもらえる」と、民間飲食店ならではの付加価値の提供に自信を見せる。
百年フード登録への大挑戦
プロジェクトの目標の一つは、文化庁認定の「100年フード」への登録である。名物として定着させることで、市外からの来訪者に食事を楽しんでもらい、地域内の消費を促す経済活性化を目指している。ここには、提供する飲食店への波及効果など、民間事業者としてのビジネスの視点もしっかりと組み込まれている。
さらに、経済効果だけでなく、コロナ禍で希薄になった「鍋を囲む文化」を復活させたいという強い願いもある。浅川さんは「みんなで鍋を囲んで和気あいあいとすることで、心の豊かな街になるんじゃないか」と、郷土愛を育み、鍋を囲む団らんの食文化の大切さを語る。
今後は、ファンクラブの運営や漫画を用いた発信戦略が展開される。市民の熱意、行政との連携、そして民間事業者の実践力が融合した茨木の共創によって、幻のとりすきは新たな誇りへと育とうとしている。

「鶏のすき焼き缶詰」は追手門学院大学と日本料理「成田家」で茨木市の産学連携事業の一環として実施したもの。温めるだけで簡単に「とりすき」を味わうことができる。市のふるさと納税の返礼品として購入できるほか、成田家(茨木市別院町3-19)でも購入可能だ。

取材に応じてくれた、(左から)茨木市共創推進課の的場理さん、茨木商工会議所の中野拓二さん、株式会社成田家の浅川和彦さん。
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