CULTUREコラムVOL.27 梅花から「令和」を込めて
2021.12.30
笑って祝う
皆さんは、新年をどのように迎えられる予定ですか。天平勝宝2年(750)1月5日のこと。『万葉集』を編んだといわれる大伴家持は、久米朝臣広縄(くめのあそみひろなわ)の館に招かれ、次のような歌を詠んでいます。
正月(むつき)立つ春の初めに
かくしつつ相(あひ)し笑(ゑ)みてば
時(とき)じけめやも (巻18・4137番歌)
牟都奇多都 波流能波自米尓
可久之都追 安比之恵美天婆
等枳自家米也母
「正月の立春の初めに、このように笑い合うことは、(今はそんな)時ではないなどということがありましょうか。(いつでも笑いが幸いをもたらします)」と。日本人はことの初めや、初物を好みます。「正月」「立つ春(立春)」「初め」と類似した言葉を重ねて祝意を表現しています。下句の「相し笑みてば」には、「笑う門には福来たる」の諺を思い浮かべてください。新年に笑うことを求める神事や行事は、今日でも容易に探すことができると思います。
家持は官人として、新年の宴で「歌を詠め」との詔が出される時に備えて、次のような歌も作っています(長歌なので部分のみ)。
(前略)豊(とよ)の宴(あかり) 見(め)す今日の日は
もののふの 八十伴(やそとも)の緒(を)の
島山に 赤(あか)る橘 うずに刺し
紐解き放(さ)けて 千歳寿(ちとせほ)き
寿きとよもし ゑらゑらに 仕(つか)へ奉(まつ)るを
見るが貴さ (巻19・4266番歌)
豊宴 見為今日者
毛能乃布能 八十伴雄能
嶋山尓 安可流橘 宇受尓指
紐解放而 千年保伎
保吉等余毛之 恵良恵良尓 仕奉乎 見之貴者
「(前略)酒宴をする今日この日は、多くの官人たちが、お庭の築山に赤く(実の輝く)橘を(髪飾りに)挿し、(宴もたけなわになると)衣の紐を解いてくつろいで、千年(も万年も続く世)を寿いで声もにぎやかに、「ゑらゑら」と笑ってお仕え申しあげている様子を見ているのは貴い(と感じられます)」と。橘の実は、『古事記』に永遠を約束する「ときじくのかくの木実」として登場します。縁起物を供えて、お酒を飲んで笑い合うと、その年が豊かに明るく過ごせると、万葉の時代から信じられてきました。
2022年は、新しい年を笑い初めたいと思います。
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梅花女子大学教授 市瀬 雅之
現代訳から原文までを用いて『万葉集』に文学を楽しむほか、『古事記』や『日本書紀』等に日本神話や説話、古代史をわかりやすく読み解く。中京大学大学院修了 博士(文学)。著書に『大伴家持論 文学と氏族伝統一』おうふう 1997年、『万葉集編纂論』おうふう2007年、『北大阪に眠る古代天皇と貴族たち 記紀万葉の歴史と文学』梅花学園生涯学習センター公開講座ブックレット 2010年。ほか執筆・講演・講座多数
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