【編集部】横尾忠則「救急病院展」大けがに入院——肉体感覚を通じて見る横尾氏の人生
2020.04.03
※この記事は2020年2月末に書いたものです。現在、美術館はコロナの影響により4月7日まで臨時休館中。
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去年、テレビで見て「何かおもしろい人だな」と思ったのがファーストインプレッションの横尾忠則氏。Twitterをフォローしてたら「救急病院展」を開催するとか。この時期にやるってどうなの、と思ったら
だって。関係者全員がマスク姿というシュールな写真も。
始まる前からネタ満載。
正直、横尾氏の絵についてはあんまり知らなくて、ピカソ系?くらいの印象。でもすごい人っぽいし、幸運にも美術館も近い。美術展関係のツイートを見ているうちに、行かなきゃいけないような気がしてきた。
動物園の真ん前にある
場所は阪急王子公園駅から徒歩約5分。道を挟んで向こうにある王子動物園から鳥か何かの鳴き声が聞こえてくる。
美術館外観
1階は広いホールの隅にミュージアムショップがある以外は、受付のカウンターがぽつんとあるのみ。受付に近づくと白衣を着たお医者さん……ではなく、受付の女性も白衣を着用していた。作品はここから始まっているらしい。
遠くから救急車の音が聞こえる。美術館の前を走っているのだろうと思ったら、定期的に館内に響いていた。ついでに暗い照明の展示室のあちこちに救急車の赤いランプがくるくると回り、真っ白な壁と作品を赤く染める。作品説明はカルテ風に書かれ、展示のテーマも「外科」「眼科」など病院さながら。
美術館まるごと病院仕様
カルテ風作品説明
学芸員さんも全員が白衣を着用。分かっちゃいるけど、病院の先生に見えてくる。その中の1人が、近くにいた初老の男性にめっちゃ話しかけられて困っていた。男性は病院の先生に世間話をしている気分だったのかもしれない。
一番最初の展示は、ポスターにも使われているメインの絵画「想い出劇場」(2007)。こちらは撮影禁止。解説はうろ覚えだが、横尾氏が温泉旅行中に倒れた時のことを描いた絵、とあったような気がする。温泉を楽しむ人や俳優のポスター、空にはオーロラみたいなものが描かれていたりと、イマジネーションの豊かさに見入ってしまう。
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作品は過去の出来事の一部と横尾氏のその時の心情をミックスした不思議な絵が展開される。戦争や災害を思わせる景色や、中学生の頃に見た事件の現場などが子ども時代の横尾氏の目を通じて蘇る。
横尾が中学生の頃に隣村で起きた殺人事件を題材にした「今夜の酒には骨がある」
絵の中に挿入される目や耳のパーツは少々不気味にも思えるが、「頭や心よりも肉体感覚を通して得られるものに信頼を置く横尾の生き方」(美術館HPより)とあるように、キャンバスの中に溶け込んで1つの表現として完成している。例えば、地下から地上へ延びる階段の絵の中央に、壁の一部かのように描かれた「耳」に横尾氏はどのような想いを込めたのか? 想像がかき立てられる。
ケガや病気の思い出と共に増えていく作品は、横尾氏の人生そのものだった。
もちろん、芸術家というのは作品を通じてその人の思いを表現していくものだろうが、美術館でこのように感じたのは初めて。モネとかルノワールとか好きだけど、なんか全然違うものだった。それは、横尾氏の思いの強さのためかもしれないし、同じ時代を生きているからこそ疑似体験できるものだったからかもしれない。
最後の小部屋で見たのは、横尾氏の年表――と思いきや病歴。「大けが」「タクシーが追突事故」「骨折」「入院」に「網膜静脈分枝閉塞症」?――未熟児で生まれた時から現在に至るまで、これでもかというほど病気やケガの連続で、見ているこっちが辛くなってきた。身体感覚を通じて作品を生み出してきた横尾氏の宿命なのだろう。
主な病歴…
最後に、休憩がてらぼーっとしていると横尾氏著書の本があったので読んだら、独特の感性が面白くて読了してしまった。
現在の横尾氏は2015年に発症した「突発性難聴が年齢と共に悪化し、補聴器を装着しない限り、ほとんど会話できない状態」とのこと。しかしTwitterは更新されている。
身体年齢は老いても、その情熱に陰りはなさそうだ。まだまだ新しい作品が見たい。
横尾氏が入院中に読んだ本。今度読もっと
兵庫県立横尾救急病院展は5月10日まで。
<4月3日追記>
ドクターストップがかかってしまっている展覧会、再開できますように。
【編集たけこ】
横尾忠則現代美術館(兵庫県立美術館王子分館)
住所
神戸市灘区原田通3-8-30
電話番号
078-855-5607
HP
営業時間
10時~18時(入館は17時半まで)
定休日
月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始ほか
記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。