-茨木市- 本は自分の世界を広げてくれる 気軽に〝あじみ〟してもらえる場に
2026.08.07
「お客様との会話の中から入荷する本が見つかることもあります」と店主の西田さん夫妻。
2026年度の日本の書店数は9,993店となり、1998年度のピーク時の24,237店から約58.8%減少している。そうした厳しい状況下で、大阪府茨木市に小さな独立系書店「あじみBOOKS」が6月26日(金)に誕生した。営むのは30代の若き夫婦。今、なぜ書店を開くのか、その思いを聞いた。
町家が残る茨木市本町に個性的な書店が誕生
阪急茨木市駅近くの「阪急本通商店街」を抜け、町家が残る趣ある通りに佇むのが「木のめ舎ビルヂング(茨木市本町1-12)」だ。昭和時代に建築された倉庫を改築し、建築デザイン設計事務所「clamp」が空間設計を手掛けたこの建物は、一歩足を踏み入れると無機質でインダストリアルな雰囲気に包まれる。ヴィンテージ家具が醸し出す懐かしさも相まって、唯一無二の空間となっている。同ビルには、この場所に魅了された人々が自然と集う。1階にはBARと古着屋、2階にはデザインスタジオ、機織りアトリエ、ネイルサロン、米粉の焼き菓子店など個性豊かな店舗が入り、新たな出会いが生まれている。
この建物の2階に、2026年6月、独立系書店「あじみBOOKS」が開店した。同店は「本を通していろんな世界を“あじみ”してほしい」というモットーを掲げている。店内にはテーマごとに仕切られた本棚が設置され、「映画」「食」「政治」「環境」「文学」などのジャンルごとに、一冊一冊厳選された本が並ぶ。サブカルチャーや社会問題、レシピ本、韓国文学の短編集など多彩なラインナップで、大型店には並ばないような小規模出版社の本や自己出版本(ZINE)、海外から直接仕入れた本なども取り揃えている。
バンド活動を通じて出会い、コロナ禍を機に茨木に移住
同店を営むのは、北海道出身の西田裕平さんと茨木市出身の歩実さん夫婦だ。二人は共にパンクバンドでの音楽活動に熱中しており、共通の趣味を通じて出会った。結婚後、北海道での生活を経て、コロナ禍を機に歩実さんの実家がある茨木市へと移住した。
裕平さんは、中学生の頃から映画や音楽などのカルチャーに深くのめり込んでいて、好きなミュージシャンが読んでいる本や、映画の原作本を読むことで本の魅力に引き込まれていったという。大学時代にNPOで難民支援に参加した経験を持つことから、店内には社会問題や入管法に関する本も並べられている。バンド活動は現在も月に1、2回は関西近郊でライブを行うほか、年に数回は東京に呼ばれるなど継続中であり、国内のインディーズレーベルからの音源リリースの経験も持つ。「いつかレコード屋か本屋か、何か自分のお店を開きたいという思いを持っていました。本はいろんな世界への入り口になる。棚の中の本をきっかけに、その人の世界が広がればいいなという思いで書店を開きました」と裕平さん。2025年から書籍のオンラインストアやレンタルスペースでの販売活動をスタートさせ、今回の実店舗オープンに至った。
本はいつでも気軽に開けば物語の世界に入ることができる
一方の歩実さんは、幼い頃から母親と地元の茨木市立中央図書館(畑田町)に通い、読書を楽しむ子どもであった。大学では哲学を専攻したことで、課題などを通じてさらに本の世界へと没頭していった。歩実さん自身、出産を経て、他者の人生を追体験し想像力を広げてくれる文学作品に以前よりも感情移入しやすくなったという。忙しくても気軽に手に取れる本があれば、本の楽しみを再認識してもらえるのではという思いから、同店では中断しても読み直しやすい短編集も多く選書されている。歩実さんは「本は途中で止めても、再び開いた時に前回の感情にすぐ戻れるのが魅力。忙しい人や家から出にくい人にも本は開かれていると思います」と語る。
「インターネットやSNSが生活に浸透する時代だからこそ、あえて本から知る情報に価値がある」と裕平さんは指摘する。店舗の営業日は基本的に木曜日から日曜日の週4日で、時間帯も日によって異なる。「気になる本が見つかったら、気軽に話しかけてほしい。小さな本屋だからこそ、会話を大切にしていきたい」と話す裕平さん。近隣の人々の生活に溶け込む店を目指し、今後は地域の人も参加できるイベントなどを企画していく予定だ。

本棚は一つひとつテーマごとに仕切られている。親子連れでも気軽に来店してほしい、と絵本が読める子ども用のテーブルと椅子も用意されている。

音楽活動をする店主が集めた音楽関連本のコーナー。アメリカから輸入した写真集なども。

環境や植物に関する本の棚。本はタイトルだけではなく、どんな本なのか調べて選書する。
記事内の情報は取材当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。