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【編集たけこ】もう一冊の「わたしの本」

2020.11.18

「人生に影響を与えた1冊を紹介してください」という企画で、真っ先に思いついたものの自粛した本をこっそりご紹介。

 

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「MOTHER2 ひみつのたからばこ」 月刊ファミコン通信編集部・編集 (アスペクト)※現在は絶版

昔懐かしいスーパーファミコンの攻略本。でもただの攻略本じゃない。

 

重要なことは、意外に

シンプルに現れて消える。

でも出会いはいつも劇的だ!―

 

本文中、ちょいちょい出てくるコピーのようなフレーズ。小学生の頃に出会ったこの言葉が、強烈に響きました。「出会いはいつも劇的」って、意味分かんない。けどなんか好き。ずいぶん大人になってから、このゲームの生みの親が糸井重里氏ということを知りました。

 

本書はロールプレイングゲーム「MOTHER2」の攻略本。攻略本というとパラメーターやらアイテムが並べられ、淡々と攻略方法が説明されているものを想像するでしょう。本書はそんな常識を覆します。

たびたび出てくるコピーみたいなフレーズ。ページをめくるのが楽しみになる

これは主人公「ネス」という血の通った人物が、実際の道をたどりながら書いた冒険の記録。攻略本として本来の目的を果たすには少々物足りない面もありますが、もはやそんなことはどうでもいいのです。

 

—生まれてからたった12年と数か月しかたっていないのに、小さかったときの記憶があまりないってのは、どうしてだろう?

 

書き出しは冒険を終えたネスの独白で始まり、思い出を振り返る形でゲームを追っていきます。部屋で寝ていると、裏山に隕石が落ちてきて、不思議に思ったネスが起きて―と終始、ネスが見たもの聞いたもの、感じたことでMOTEHR2の世界がつづられます。本文のサイドや途中に、攻略本らしく地図やらアイテム、特殊能力のことが書かれているのですが、それもネス視点。手書きだったり、どこかチラシ風だったりして、あくまでもこの世界の中の出来事なのです。ちょくちょく出てくる町や風景の写真も、たぶんホンモノ。

ゲームに出てくるけど本当の町っぽい写真

「たぶん」というには理由があります。本の中で使われている画像は、写真とグラフィックが入り混じっているのですが、読み進めるうちに、どっちがどっちだか、分からなくなってくるのです。

 

—町や建物の写真はホンモノっぽい。でも、ゲームに合った風景をそんな簡単に撮れるかな? スフィンクスの写真はホンモノだろう。間欠泉は確かに実在するけど、ピンクやブルーなど色が付いているのはあり得ない。回復アイテム「いちごどうふ」の写真は実物に見えるけど、さすがに「マジックトリュフ」はグラフィックだろう。敵キャラのヤンキー「フランクさま」や怪しい小悪党「トンチキ」は、現実にもいそう。でも「おたずねものムシ」や「マル・デ・タコ」なんてのは、さすがに実在しないはず……

右下「ポーラスター幼稚園」の写真は、看板も屋根に乗ってるクロネコもゲームと同じ

現実とゲームを行ったり来たりしている間に、「もしかしたら、いるのかも」なんて錯覚に陥ります。次第に境界線が薄くなり、終盤に差し掛かるころには「MOTHER2の世界は、どこかにあるんだ」という魔法にかかってしまうのです。子どもの私には十分すぎる力でした。

 

えっ”グルメとうふマシン”? いろんなトウフができるんだって。でもいまは”いちごとうふ”しかできない…… (中略) トウフってあの、ジャパニーズ・ダイエット・フードでしょ?

 

いちいちリアリティがあるネスの感想も、魔法の1つ。

 

実は、本書に出合うより先に読んだノベライズが、めちゃくちゃ面白かったのです。ノベライズは、ゲームの世界観はあるものの、登場人物の性格はオリジナル。それでも「MOTHER2」という1本通った太い軸があり、リスペクトして書かれていることがよく分かります。

発売当初を知らない若い世代にとって「どせいさん」は”投げるもの”らしい…なんてこった

今でこそ、「流行しているものは、大人の思惑が絡んでいるに決まってる」とうがった目で見てしまう私ですが、これは子どもの自分が勝手にハマったもの。そして、私と同じように世界中の子どもたちを魅了しました。なにがそうさせるのでしょうか。

 

大人になってから、このゲームを企画した糸井氏が有名コピーライターということを知りました。そして任天堂元社長・岩田氏ほか、開発に携わった人たちの熱量もハンパない。各方面のプロフェッショナルが勢ぞろいし、ゲームという子どもの娯楽に、遊び心と情熱を目いっぱい詰め込んだのが本作。そう、まさに”たからばこ”なのです。

 

主要キャラクターはもちろん、1種類しかセリフを言わないキャラクターすら命が宿っているし、耳に残るBGMは何度聞いても飽きません(特にシリーズ1)。ノベライズや攻略本すらこの完成度。冒頭で書いたコピーみたいな文言は糸井氏のものではないようですが、やっぱり刺さる。本書の著者もまた、「MOTHER」ワールドに魅了された一人なのでしょう。この初稿を書いた数日後、家に来た8歳の甥っ子にやらせたら、さっそく夢中になっていました。別の某有名RPGには見向きもしなかったのに。時を超えてもなお、魔法の力は衰えることを知らないようです。

本の最後についてる袋とじは「MOTHER2」のQ&Aなど。人生最初で最後の袋とじ

言葉選びのセンス、ストーリーやシステムのユニークさとバランス、全てが新しかった20数年前。今でも唯一無二の存在であることに加え、大人になってからは今の自分と同じくらいの世代の人たちが、これだけのものをつくったことに感動します。

 

果たして今の私にこんな仕事ができるだろうか? 私が本作に感じているような気持ちを、誰かに抱かせることができるだろうか? 難しそう、でもやりたい。

 

影響を受けた1冊というには、本の範疇を超えていますが、出会ってから今まで常に新鮮な刺激を受けている本、というか作品もまたありません。

MOTHER関連グッズ

昨年はMOTHER誕生30周年特集が組まれた雑誌を買いました。偶然にも数日前、元任天堂社長のエピソード集「岩田さん」(ほぼ日刊イトイ新聞・編)を買いました。実は実は、近所のお兄さんからファミコン版「MOTHER」をもらったのは、この本やノベライズに出会うより前の、もっと小さい頃だったりして。今の仕事をしているのだって、関係あるような、ないような。

 

「おとなも、こどもも、おねーさんも」

だけじゃない

「おばさん、おばーさんになっても」

きっと

※スーパーファミコン版「MOTHER2」発売当時のキャッチコピー

 

 

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